「ねぇ、悠真。」
夜、ベランダに出た紗菜が、缶コーヒーを片手にぽつりとつぶやいた。
冷たい風が頬を撫で、街の灯りが遠くで瞬いている。
「なんかさ、またこうして並んでるの、変な感じだね。」
「変か?」
「うん……だって一回終わったのに、またここにいるんだもん。」
悠真は笑った。
「終わった、って思ってたのはお前だけかもな。」
「え?」
「俺、あの日……“終わった”なんて一度も思ってなかった。」
その声は、静かだけど、確かだった。
いつも強がっていた彼の目が、まっすぐに紗菜を見つめている。
「ただ、どうしても素直になれなかった。
お前が泣いた顔見るのが、怖かった。」
「……バカ。」
「知ってる。」
くすっと笑い合う。
その笑いの中に、少し涙が混じった。
「じゃあさ、もう一回、最初から始めようよ。」
紗菜が言うと、悠真は目を丸くする。
「最初から?」
「うん。出会いから。……“大学の新入生の私”と“たまたまルームシェアすることになった悠真”って設定で。」
「お前、何それ。」
「いいじゃん、ロマンチックで。」
そう言って、紗菜はにっと笑った。
悠真は小さくため息をつきながらも、その笑顔に負けて笑い返す。
「……わかった。じゃあ、最初のセリフからやり直すか。」
「え?」
「『……は?なんであんたがここにいんの?』だろ?」
「ちょ、やめて! それ私のセリフじゃん!」
「演技指導してやろうか?」
「いらない!」
笑いながら肩を叩き合って、
気づけば二人の距離は、また少し近づいていた。
部屋に戻ると、テーブルの上には二つのマグカップ。
ココアの湯気が、やわらかく揺れる。
「ねぇ、悠真。」
「ん?」
「好きだよ。」
一瞬、時が止まった。
そして、悠真はゆっくりと笑う。
「俺も。……何回でも、言ってやる。」
その言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。
でも、もう泣きたくなかった。
だから、笑った。
この人となら、きっと大丈夫だって思えた。
外では、春の風がカーテンを揺らしている。
新しい季節が、もうそこまで来ていた。
——失った恋じゃない。
——今度こそ、“続いていく恋”なんだ。
「ねぇ、悠真。」
「ん?」
「もう一度、恋しよう。」
「……ああ。お前と、何回でも。」
二人の笑い声が、同じ屋根の下に響いた。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。