第2話

1話
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2024/02/16 00:00
「つーかーさっ!今日暇か?遊ぼうぜ!」

「あ〜ごめ、今日はちょっと用事ある」

「バイトか?お前ん家大変そうだもんなぁ…でも最近元気ないぞ?大丈夫か?」

「大丈夫だよ。ちょっと寝不足なだけだって」

「……ん〜そうか?今日も授業中寝てたもんな…まぁ無理すんなよ!暇できたら連絡よこしてゲーセン来い!」

「わかってるっての。じゃあな」

「おぅ!また明日な!」

 ……本当は、今日のシフトはない。

 電車に乗りながら呆然と考える。今日は、何故か速水の誘いを断ってしまった。仲良くしている友達だし、あいつと遊ぶのは好きなはずなのに。

 何をするにも乗り気になれない。西日が眩しい車内の中でただ揺られて、駅に着くのを待っていた。

 家の玄関を開くと、ちょうど玄関で靴を履いている母さんと遭遇した。

「あっ、つかさおかえり、お母さんちょうど今から夜勤だからご飯あっためて彩花と一緒に食べてね!」

「……うん」

「じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい」

 母さんの背中が見えなくなると同時に、がちゃんとドアが閉まる音がした。…今日も母さんは仕事らしい。

 妹の彩花が帰ってくるまで何をしようか…勉強は論外、とはいえ読んでた漫画は最終巻まで読み尽くしてしまったし、ゲームも起動する気にならない。今日1日、何となくずっと気だるげで身体が重かったからか、家に帰っても何もする気にならない。のろのろと階段をあがって2階の1番奥の部屋の扉を開ける。
 なんの変哲も無い俺の部屋は、いつも通り電気が付いていて明るく、参考書やゲーム機が散らかった勉強机の上に、知らない不審者の男が座っていて…

「はぁ!?」

 咄嗟に手に持っていた製鞄を投げつけるも、男は鞄の重さを感じさせないほど軽々と片手でキャッチした。学校に要らない物が沢山、詰まっている筈なのだが。

「礼儀がなってねぇなぁ最近の餓鬼は…」

「……誰だよ、お前」

 鞄が男の手から離れると、ドスンと重みのある音がして床に落ちる。咄嗟に投げた鞄に隠れていてよく見えていなかった男の姿がしっかりと目に映った。とはいえ目深に被ったフードが邪魔して顔が見えない。

 男は真っ黒だった。スラッとした体型に黒い靴、黒いズボン、黒い手袋…皮膚が見えるのは顔周りのみで、足の先まである黒いマントを羽織っている。ちょうどハロウィンに渋谷に行ったらヴァンパイアか死神のコスプレをしたヤツがこんな感じのマントを羽織っている思う。東京住みとはいえ、ハロウィンの渋谷に行ったことはないけど。

 フードのせいで顔はよく見えないが、横に引き伸ばされ、薄く笑った口がなんとも陰湿で人を小馬鹿にしたような雰囲気を纏っている。体型も相まって、詐欺師みたいな感じだ。

「オレはお前に営業しに来たんだっておい、逃げようとすんな〜?ジリジリ扉の方に寄ろうとしてんの分かってるからな〜?おーい?」

「…ちっ」

「不審者が自分の部屋にいるってのに落ち着いてんな〜? たく、最近のはみんなこうなのかねぇ…」

「ここで、なにしてんだ」

「お前を待ってたんだよ! いい話があるからさ、ちょっと聞いてけって」

 聞いてくも何も、ここは俺の部屋なんだが。男は座ってた机から飛び降りて手を前に翳す。と、いきなり大きな鎌が俺の目に映った。

「っ!?」

「おおっ! いい反応出来るじゃねぇか!」

 大きさは男の身の丈と同じくらい、男はかなり背が高かったから2mくらいあるんじゃないだろうか。柄の部分は長いが刃の部分も1mはあるだろう。

「死神」

 男の姿がそうにしか見えなくなった。大鎌は俺の想像していたのよりずっとシンプルで飾り気がなく、だからこそこれを振り回されたら一瞬で身体が真っ二つになるだろうということが簡単に想像出来る。

 パッ、と一瞬で鎌を消すと、男は嬉しそうに口角を吊り上げて笑った。

「そう!これは死神のお誘いだ!1人殺る度お前の懐に1万!でっけぇ鎌と魔法の本とマントもついてくる!」

 イイ商売だろ?そう笑いかけてくるが何を言ってるのか理解が出来ない。新手のコスプレイヤーか何かだろうか?

「意味がわからない」

「たく、頭硬ぇなお前…まぁいい、それなら新人研修と行こうじゃねぇか!」

「は!?お前何してっ…!?」

 マントの奥から分厚くこれまた真っ黒な本を取り出したかと思えば、本はペラペラと独りでにページが捲られていく。

「…浮いてる…どうなってんだ」

「言っただろ?魔法だよ。」

 ニヤリと笑ったら男は、本のページをちぎると俺の腕を無理やり掴む。
 華奢な見た目の癖して、かなりの力だ。逃げられない。

「はなせっ!!!」

「イイもん見せてやるから、暴れんなって!ったく…」

 男は本の隣で浮く本のページを、いつの間にか持っていた大きな鎌で斬る。

「や……め……っ……」

 視界がぐちゃぐちゃになって、だんだん意識が暗闇へと落ちていった。

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