家出みたいな大きな荷物を手に持っていて
くるくると私の前に回って見せた
可愛らしい声のその人は穏やかに微笑んでいる
ニヤニヤしながら「ふっふっふー…」と
怪しい笑みを浮かべて距離を縮めるようにして
トコトコと荷物を持ったまま走ってきた
名前を言うと、ひょいと私の体を抱き抱えて
上目遣いで弾んだ口調で言った
その名前で走馬灯のように思い出した
言われてみれば雰囲気や話し方も変わらない
テンションが上がっていた
上目遣いで「やったぁ!」と喜びを口にしている
だけど、さとみくんの一言で元の調子に戻された
ひらひらと薄い赤色のカーディガンを
風で揺らしながらぱちぱちと瞬きすると
「嘘ついた~っ!」と駄々をこね始めていた
考えても考えても思い出せない
そんなことを言ったような、言わなかったような…
いつになったら下ろしてくれるんだ、、、?
ぷんぷんと唇を尖らせながら
さとみくんに向かってべっ、と舌を出して
対抗していたがさとみくんも簡単に折れるわけなく
莉犬くんが拗ねたような調子で
コンクリートの上をぴょんぴょん跳ねながら
首を勢いよく自分の意見に対して縦に振っていた
そう言うと、
こういう時の為に用意していたようにして
私の首の紅くなっているところを触った
莉犬くんの目がさっきよりも潤ってきて
泣きそうになってしまった
さとみくんを見ると知らんぷりしている
"今日一日でオレしか見えなくさせるもん!"
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!