THE RAMPAGEが結成されて初めてのレコーディングの日。
まだ幼い顔立ちのボーカル3人。
緊張した面持ちでやって来たスタジオ。
ニッコリと含みのない笑顔。
自己紹介さえ硬い。
クスッと笑うあなた。
揃って頭を下げた。
ブースの中へ促される。
ヘッドホンをして集音器の前に立つ壱馬。
小窓からブースの外へ視線を移した。
あれが…
Lightningを作った人…?
あんな細くて…
華奢な女が…?
触れたら…
壊れてしまいそうなのに…
曲とあなたのイメージのギャップ。
綺麗な…
人だな…
フワッと胸に沸く甘酸っぱい感情。
それを断ち切るように
スタッフの声。
細い腕を組んで、穏やかだった笑みをスーッと引っ込めていくあなた。
流れ出す音楽。
しょっぱなから身体に響く重低音に、身体を揺らす壱馬。
スゥ…と息を吸って低音ボイスを吐き出した。
ここから始まるんだ…
聞け…
俺の歌を…
登坂広臣の弟じゃなくて…
川村壱馬の歌を聞け…
音のひとつも外さない安定感。
満足そうな顔のスタッフ。
独り言のように呟いたのとほぼ同時だった。
あなたを不思議そうに見上げる。
気持ちよく歌っていたのに、突然ぶち切られた音。
驚いてブースの外を見る壱馬に放った一言。
さすがに陸と北人も驚いた顔を見合わせた。
再び流れ出す音楽。
気を取り直してさっきのように息を吸い込んで歌い出す。
でもあなたは、その後も途中で音を容赦なく止めた。
その度初めから歌い直しを求められる。
我慢出来なかった壱馬。
ブースの中で噛み付いた。
少しも動じないあなたはサラッと言い放つ。
その一言に
ため息をついてそう言った。
戸惑った顔で陸を見れば小さく頷かれる。
不貞腐れた顔でブースから出てくる壱馬と入れ替わった。
流れ出す音楽。
北人が歌い始めても音が止まることは無い。
腕を組んで見せるのは、壱馬の時と同じ顔。
小さな背中を見つめて壱馬は唇をキュッと噛んだ。
何がちゃうねん…
北人も止めろや…
なんで俺だけやねん…
その日。
壱馬がOKを貰ったのは開始から8時間後だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!