翌日。
臣は自宅のソファで笑い声を上げた。
隣に座るあなた。
昨日のリハの様子を話して聞かせていた。
良い眼だった…
ゾクゾクした…
歌い方にも…
表現の仕方にも…
年齢を重ねて醸し出す色気がたっぷり乗ってた…
手に出来ない愛…
それを欲しがる様が…
よく表現出来ていた…
そう言われたら、褒めたのかどうか考えてしまった。
そっと抱き寄せられる肩。
肩から身体を撫でる手が腰に落ちる。
軽く開いた唇が触れると、チュッと音を立てた。
ソファに簡単に押し倒される。
そう言いながら、深いキスを落としてきた。
わざと立てるリップ音。
重ね直しながらブラウスのボタンに手をかけた。
小さな抵抗を見せる細腕。
掴んでソファに押し付ける。
白い肌に吸い付けば甘い匂いが鼻をくすぐった。
ガチャッ…
音を立てて開かれた扉。
突然視界に入った光景に、思わず止まった壱馬。
クスッと笑う。
部屋の中に漂う匂いで誰がいるかすぐ分かる。
呆れた顔で自室の扉に手をかけた。
顔も向けずに不機嫌な声。
それだけを返すと部屋に入って行く。
荷物を床に落として壁に寄りかかった。
悪くなかった…?
それは…
良くもなかったって事か…?
俺なりに…
悩んで考えて作りこんだのに…
悪くなかった…?
扉の向こうから聞こえてくる声。
二人のじゃれ合う声。
随分…
上から言ってくれんじゃんよ…
それも…
嫌いなんだよ…
兄貴…
どこがいいんだ…
何がいいんだよ…
そんな女…
聞きながら、壱馬はギュッと拳を握りしめた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!