第191話

and more... ⑦
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2021/07/23 11:00

ジャケットのポケットから引っ張り出してテーブルに乗せた。

(なまえ)
あなた
あっ…。
壱馬
壱馬
握りしめて眠っててん。

一気に脱力する感じ。
(なまえ)
あなた
良かった……。

今日一番解れた顔で伸ばしたあなたの手。

覆うように掴まれた。
壱馬
壱馬
あなた…。

怖いくらい真剣な顔。
壱馬
壱馬
返事は…はい…だけだ。
(なまえ)
あなた
……え。

立ち上がる壱馬。

あなたの前にかしずく。


何事かとガタンと立ち上がるあなた。


小さな手。

そっと取った。
(なまえ)
あなた
か……壱馬…?

スーツのポケット。

突っ込んだ手を引っこ抜いた後。


細い左手の薬指におさめられたリング。

小ぶりのダイヤがおさまったもの。


あなたの表情が驚きで染まる。
壱馬
壱馬
キミの未来を…俺に…。
(なまえ)
あなた
…………かずっ…。

顔を上げる壱馬。

あなたを見上げる。
壱馬
壱馬
俺の人生を…キミに…。
(なまえ)
あなた
……何…言って…。

指先を軽く引いて唇に押し当てた。
壱馬
壱馬
俺の全てをかけて…。

いつか話したよな…

アーティストとしての俺も…

男としての俺も…

何も変わらんって…
壱馬
壱馬
あなたを幸せにします…。

今…

ここにいるのは…

アーティストでもなんでもない…

ただの…

川村壱馬だ…
壱馬
壱馬
だから…。

カッコつけることも…

装うことも…

偽ることも無い…


ランペとしての顔も…

役者としての顔も…

どんな顔も全部取る…


だから…
壱馬
壱馬
俺と…。

俺と行こう…

この世の全てが羨むほどの…

幸せな未来へ…
壱馬
壱馬
結婚してください。

ホロッとこぼした小さな涙。

頬を伝って壱馬の手に落ちる。


なのに。


あなたは首を何度も横に振った。
(なまえ)
あなた
自分が…何言ってるか分かってるの…?
壱馬
壱馬
嫌なん…?
(なまえ)
あなた
結婚なんかしたら……川村壱馬の名前に傷が付くのよ…?
壱馬
壱馬
そんなもん付かん…。
(なまえ)
あなた
こんな大事な…これからって時に…結婚なんてっ…。
壱馬
壱馬
こんな時やからや…。
(なまえ)
あなた
もっとよく考えてっ!
壱馬
壱馬
あなた!!

グイッと引かれると強く抱きしめられた。
壱馬
壱馬
ホントは……兄貴を越えられる日が来たらって…決めとった…。

だけど…

もう無理や…

もう待てん…


お前を…

ちゃんと捕まえておきたい…


あなたじゃなきゃあかん…

あなたしかおらん…


あなたのいない人生なんか…

考えられん…



緩む腕の中で見つめ合う。
(なまえ)
あなた
後悔…するわ…。
壱馬
壱馬
んなもんせんわ…。
(なまえ)
あなた
マ…マネージャーさんに怒られるに決まっ…。
壱馬
壱馬
もう話した。
(なまえ)
あなた
こんな高い店っ!
背伸びしてっ!
壱馬
壱馬
兄貴と始まった場所で…俺も始めたかった…。


どうしてこの人は…



いつの間にかボロボロこぼれている涙。



少しのよそ見も…

させてくれない…


ホントは…

怖かったの…


置いてかないで…

一人で行かないでって…


見つからなかったリングが…

壱馬まで連れ去ってしまいそうで…



小さな手。

リングのおさまったあったかい手。

壱馬の頬を包んでくる。
(なまえ)
あなた
……会いたかった……壱馬…。
壱馬
壱馬
俺もや…。

細腕が首に巻きついて抱きついてくる身体を、しっかり抱きしめ返した。
壱馬
壱馬
返事は……?
くれへんの…?

耳元で囁かれる。

お互いの吐息が感じられる距離。


壱馬は頬の涙を拭ってあげた。
壱馬
壱馬
ま、はい…しか聞くつもりないねんけど?(笑)

フッと緩む頬。
(なまえ)
あなた
壱馬……愛してる…。

返事なんて…

ひとつしかない…


壱馬が傍にいる…

それだけが…

私の幸せ…



引き寄せられるように近付いていく唇。

触れ合わせた後。

キツく重ねた。



俺も…

愛してる…


あなたという女を…

愛してるよ…

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