時刻は3時過ぎ。
私は冷たくなったリイカをずっと抱きしめていた。
サラサラした髪をそっと撫でると、私の手に抜けた髪が絡む。
もう蛆も湧いてきていた。
私のせいで誰かが消えたのは、これが初めてじゃない。
それでも、誰かが死んでいくのは怖い。
(………あの時の…。)
リイカが最後に見せた、あの表情。
私が見てきた中で、1番幸せそうな愛おしいものを見るような表情だった。
それはもう、声が出ないほど。
あの時、リイカは何を思っていたのだろう。
私を憎んだだろうか。
無理もない。
私のせいで、リイカは死んだのだ。
私と関わらなければ、リイカは死ぬことはなかった。
あの時、「関わるな」と突き放していれば、こんな事にはならずに済んだ。
私が、リイカを殺したのだ。
「……いつまで、そうやってるつもりだ?」
知らない声だった。
顔を上げると、断頭台の奥に背の低い子が立っている。
顔はベタベタした髪で隠れていて、よく見えない。
「……だれ?」
泣いていたせいか、絞り出した声は枯れてしまっていた。
そんな事も気にせず、目の前の子は唯一見える口角を上げる。
「君の先祖だよ。名無しって呼ばれてる。」
「…せんぞ?」
「君と血が繋がってる人のこと。」
名無しは断頭台を跨り、私の隣まで来る。
私はポツリ、と独り言より小さな声で呟いた。
「……私、どうすれば良かったのかな。」
「君がどうしようと、こうなる未来は変わらなかっただろうさ。」
「…リイカを、守れたのかな。」
「異変に気づけていたら、もしかしたらな。」
「私、生きてていいのかな。」
「……。」
「ねぇ」と私は名無しの方を見る。
僅かに、髪の隙間から瞳孔が見えた。
「私を、殺してほしいの。」
私がその言葉を口にすると、名無しは笑みを浮かべた。
「それはまだできない。」
「……どうして?」
「君にはまだ、やるべき事があるからね。」
名無しはそう言って断頭台から離れた。
私は名無しの背中を目で追っている。
やがてコチラを振り向くと、一言寄せて姿を消した。
「また来るよ。9人目。」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!