気を失った私は、気がつくと断頭台の前に立っていた。
悪魔の子関連で処刑される時、これを使うと聞いてはいたが、まさか本当だったとは。
処刑させる少し前だと言うのに、私はやけに落ち着いていた。
(……あーあ。死ぬ前に、ユキちゃんと一緒にお出かけしたかっなぁ。)
ユキちゃんが町の人に見つかるのを避けるため、今まであの花畑以外で遊んだことは無かった。
こんな事になるなら、1回でもショッピングとか、普通のデートを一緒に楽しみたかった。
(……そんな事を考えても、もう手遅れか。)
1歩、足を踏み出したその時。
「リイカ!!!!!!!!!」
耳障りな雑音の中から、1層透き通った声が私の意識を現実まで引っ張ってきた。
声のした方を見れば、ユキちゃんがコチラに向かって人を押しながら走ってきている。
「……ユキちゃん。」
私のために、ここまで走ってきてくれたのか。
そう考えると、途端に愛おしさが込み上げ、同時に「死にたくない」という思考が脳に染み込む。
私は負けじと声を張り上げ、ユキちゃんの名前を呼んだ。
「ユキちゃん!!!」
ユキちゃんは私の声を聞くと、ハッと顔を上げこちらを見上げた。
その顔は腫れたり痣ができていたり、ここまで来るのにかなり暴力を受けてきたようだった。
それでも、ユキちゃんはまだ走るのを辞めない。
「リイカ!!!」
でも、
きっともう間に合わない。
二度とユキちゃんに会うことは出来ない。
それなら、
それなら、ユキちゃんの記憶に強く残りたい。
「……ユキちゃん。」
もう感情を抑える必要はなくなった。
私は抑えていた表情筋も全て解放し、ありったけの愛を込める。
「愛してる。」
14年の私の生涯は、ここで幕を閉じたのだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。