※JC作品クロスオーバー
いつになく焦ったような山崎と一哉の声が無機質なコンクリートの部屋に響いたーーー
◆◇◆◇◆◇
今日はバイトがいつもより早めに終わったから部室まで迎えに来た。
なのにそこには真の姿はなく、それどころか康くんやカズくん、健くん、ヒロくんの姿もなかった。
たまたま残ってた部員に聞いても誰も知らない、先に帰ったんじゃないか、って言う子ばかりで全く足取りが掴めなかった。
今の状況を考えれば考えるほど嫌な予感は強まっていく。
もし真に、みんなに何かあったら、俺はーーー
俺は急いでスマホの電話帳を開いた。
◆◇◆◇◆◇
いつも冷静な康次郎や健太郎の表情にも焦りが見え隠れしている。
その時、
「よう。バスケ界のクズ共。」
声が響いて1人の男が部屋へ入って来た。
いや、1人じゃない。
後ろからぞろぞろとガラの悪い連中が続く。
「この間はよくも好き勝手やってくれたよな。俺の腕もこんなにしてくれてよ。」
そう言ってギプスのついた腕を指差す。
「お前ら、真面目なやつが歯軋りして悔しがってるのを見るのが好きなんだろ?」
「なら、試合のときはさぞ楽しかったんだろうなぁ。」
ドカッ!
「人が苦しんでる姿が見られてよ。」
バコッ!
「俺は〝真面目〟だからなぁ。やられた分はやり返す主義なんだよ。だからーーー」
チキチキチキ………
「今度はお前らが俺に見せてくれよ。」
「お前らが苦しんで歯軋りする姿をよぉ…。」
剥き出しのカッターの刃が俺の頬に押し付けられた瞬間。
ドゴオオォォオンッ!!
錆び付いた鉄の扉が吹き飛んだ。
と、思えば、その場に似つかわしくない程間延びした声が聞こえて、扉の吹き飛んだ出入口から兄貴のバイト仲間の蘆屋とかいう女がすたすたと入ってきた。
そして。
俺が、俺たちが、この世で最も信頼する人の声が響いた。
◆◇◆◇◆◇
あれから、俺は知り合いや友人に連絡して助っ人を頼んだ。
そして、1棟の廃ビルにたどり着いた。
途中でちょっとした邪魔が入ったけど、何とか最上階の1番奥にある部屋へ。
そこにはボロボロになった後輩たちと、カッターを手に襟首を掴みあげられている弟の姿がーーー。
やっくんに言われたとき、俺の中では既に何かが切れていた。
パチンッ!
俺のその言葉を合図に狂乱の宴が始まった。
◆◇◆◇◆◇
ぺち!
全てが片付いた後、協力してくれた友人たちにお礼を言う。
一気に騒がしくなった周囲に苦笑する。
罰が悪そうに真が声をかけてきて、本当は思いきり抱きしめたかった。
でも…。
俺が戸惑っていると、やっくんから傷パッドを手渡された。
やっくんから受け取ったパッドを真の頬に貼る。
いきなり真に頬っぺたをつねられてビックリした。
キッと睨まれながら言われて、思わず一瞬思考が停止した。
そっか……。
そうだよね……。
俺は笑った。
みんなが安心出来るように。
これ以上、真を傷つけないようにーーー
【おまけ】
事件の翌日。
了
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!