第4話

四の怪、初手からこれかよ
14
2026/01/02 07:39 更新
牡丹の背後に立った蛟は、釣りざおで軽く自分の肩を叩きながら仮面のような笑みを浮かべた。
_蛟@みずち_
みずち
騙して喰う?僕らが、茉莉花達を?
_蛟@みずち_
みずち
笑わせるなよ、翠月のお嬢さん
蛟が牡丹の姓を出した瞬間、殺気が蛟の頭に向かって迸った。
_蛟@みずち_
みずち
おっと
翠月牡丹
翠月牡丹
...なぜ私の家のことを知っている?翠月家の
情報は御三家の内で秘匿されているものだ
滅んだ翠月家の情報を知っている、というだけで、牡丹の中では蛟を攻撃対象に定める条件が整ってしまったようだ。強い妖気を孕んだ符が蛟の頭を囲う。
近衛百合
近衛百合
ちょ、ちょっと牡丹!失礼ですよ!
翠月牡丹
翠月牡丹
百合様は黙っていてください!この妖怪に
吐かせなければならないことが私には...
九条葉琉屠
九条葉琉屠
おい翠月牡丹
蛟を攻撃しようとした牡丹を、葉琉屠が声だけで圧した。
九条葉琉屠
九条葉琉屠
蛟は「別枠」。つまりウチに所属する祓い師だ
九条葉琉屠
九条葉琉屠
祓い師同士の術による喧嘩は御法度...
そこで言葉を切り、軽くため息を吐いてから恐ろしく凪いだ葉琉屠の眼が、まっすぐ牡丹を捉える。
九条葉琉屠
九条葉琉屠
知らないとは言わせねえぞ?
背筋に寒気が走る。意識するより先に蛟の頭を囲っていた符術を解除し、距離を取る。
翠月牡丹
翠月牡丹
(なんだこの人...!?さっきまでと気配が全然違う...)
武器こそ取り出していないものの、葉琉屠がまとう威圧感は凄まじい。10年以上祓い師として妖怪と戦ってきた牡丹の動きを一瞬で拘束した。
牡丹があまりの気迫に息を飲んでいると、牡丹を庇うように百合が前に出てきた。
翠月牡丹
翠月牡丹
百合様!?
近衛百合
近衛百合
彼女の無礼、近衛家当主一族を代表してお詫び申し上げます
近衛百合
近衛百合
これから2年間もお世話になるというのに、
あまりにも不躾な態度でした。申し訳ありません
深々と頭を下げた百合をしばらく値踏みするように見ていたが、葉琉屠は一度眼を伏せた後、
九条葉琉屠
九条葉琉屠
うんうん!素直にしっかり謝れるのは良いことだ!
先程までの軽いノリに戻った。
九条葉琉屠
九条葉琉屠
百合ちゃんに免じてここは許したげよう。蛟もそれでいいよな?
_蛟@みずち_
みずち
異論無いよ。あの子はいい子そうだしね
快く許した蛟にうなずいて、葉琉屠が空気を切り替えるように手を叩いた。
九条葉琉屠
九条葉琉屠
はいはい!いつまでもここにいたら
風邪引くからとっとと荷物運び込むぞー
九条葉琉屠
九条葉琉屠
松、案内よろしくな
松風
松風
かしこまりました。それではみなさま、こちらへどうぞ
九条桂里奈
九条桂里奈
天子てんこー。私らは先に家に入ってご飯の用意しよう
天使
天使
うん。それじゃあ百合ちゃんこっち来て
近衛百合
近衛百合
は、はい!
九条茉莉花
九条茉莉花
それじゃあ私と蛟は手分けしてお部屋の用意ね。
蓮斗さんは蛟に案内してもらってください
近衛蓮斗
近衛蓮斗
......わかりました
妖怪に案内してもらう、という事実が受け入れがたいのか、蓮斗の返答には長めの間があった。
_蛟@みずち_
みずち
それじゃあ蓮斗くん、こっちにおいで
近衛蓮斗
近衛蓮斗
言われなくても行くよ
無事に荷物の搬入と家事当番の分担が終わったところで、百合の部屋を松風と天使が訪ねてきた。
松風
松風
色々とお疲れさまです、百合さん
天使
天使
結構一触即発な空気だったけど大丈夫だった?
近衛百合
近衛百合
大丈夫です。あなた方は確か...
百合が名前を思い出そうとしていると、二人の方から先に名前を言ってくれた。
松風
松風
松風と申します。お気軽に松とお呼びください
天使
天使
天使だよー。好きな呼び方で全然オッケー
天使
天使
桂里奈からは「天子」って呼ばれてる
近衛百合
近衛百合
そういえば先程も呼ばれていましたね
天使
天使
そうそう。私達仲良しなんだ~。ね?松姐まつねえ
松風
松風
天ちゃんは桂里奈さんが大好きですものね
松風に頭を撫でてもらって嬉しそうな天使と、そんな天使を優しい微笑みで見守る松風を見て、百合の脳裏にはかすみが思い浮かんだ。
近衛百合
近衛百合
(お姉様も、よく頭を撫でてくれましたね...)
松風
松風
百合さん
近衛百合
近衛百合
ひゃい!
感傷に浸っている最中に呼び掛けられて、思わず変な声が出る。それを笑うこともなく、松風は少し顔を傾けて百合を心配そうに見た。
松風
松風
大丈夫ですか?
近衛百合
近衛百合
え?大丈夫...とは?
唐突な質問の意味がわからず暫し固まる。松風も言葉が足りないと思ったのか付け加えてくれる。
松風
松風
その...かなりやる気MAXなご家族のようでしたので
松風
松風
口こそ開きませんでしたが、蓮斗さんも
私達を狩る用意をされていましたし
蓮斗は牡丹が蛟に攻撃するのを見ながら、懐から符を取り出そうとしていた。葉琉屠が止めに入らなければ確実に放たれていた攻撃だ。
近衛百合
近衛百合
(そこまで気づいていたのですね。さすがです)
天使
天使
それで、あんな二人と一緒にこういう風変わりな場所に
放り込まれちゃって、早速疲れてるんじゃないかなーって
天使
天使
松姐と相談して様子見に来たの
二人の気遣いは正直なところ、かなりありがたい。口からため息が自然と漏れる。
近衛百合
近衛百合
はい...さすがに初手でやらかすとは思っていませんでしたので...
近衛百合
近衛百合
正直、結構幸先不安です...
牡丹も蓮斗もかなり血の気が多い。それは「荒くれ御三家」と呼ばれている近衛家の構成員と比べてもだ。
二人とも過去の因縁がそうさせるのだろうが、二人と行動することが多い百合は気疲れすることが多い。今回のひと悶着もそうだ。
近衛百合
近衛百合
これから2年間、ここでやっていけるでしょうか...?
百合がこぼした不安を聞いた松風と天使は顔を見合わせ、それからまた百合に向き直った。
松風
松風
大丈夫ですよ。私達はあなた達と仲良くなりたいと思っていますので
天使
天使
蛟は結構めんどっちい性格だけど...私達は大丈夫だから!
近衛百合
近衛百合
本当ですか?
蛟と牡丹が和解できる可能性はもう諦めていたが、二人と仲良くなれれば希望はあるかもしれない。
天使
天使
本当本当!あ、百合ちゃんスマホ
持ってる?連絡先交換しよーよ!
松風
松風
いいですね。3人でショッピングとか行きましょうか
早速自分のスマホを出した二人は、そこらの人間が見れば普通の女子大生・女子高生だろう。百合もなんだか気が楽になってきた。
近衛百合
近衛百合
はい!これからよろしくお願いしますね、松さん、天さん
波乱含みで始まった共同生活。不安はあれど、百合は一風変わった新たな友人とのこれからに心を踊らせるのだった。

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