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第89話

清風
16
2025/11/13 12:00 更新
お桃と松乃は奉行に案内され、台所に入った。そこには先日武信たちの畑で見たときよりも凄惨な光景が広がっていた。台所女中は、入り口の方を向いて倒れていた。
奉行
奉行
死因は…この刺し傷か
奉行は背中の傷を見た。ちょうど、細身の刃物が刺さったくらいの傷だ。
松乃
松乃
じゃあ、お桃ちゃん。頼むわよ
お桃
お桃
はい
お桃は遺体に声をかけた。しかし得られた返答は畑泥棒の遺体と同じものだった。
奉行
奉行
…そうか
奉行は曇った目でお桃を見た。
お桃
お桃
すみません、お役に立てず
奉行
奉行
気にしなくてもよい。分からないものは分からないのだからな
お桃
お桃
わからない、ということは…顔を合わせなかった、ということでしょうか
松乃
松乃
でしょうね。でも、お桃ちゃん
お桃
お桃
え?なんでしょうか
松乃
松乃
もう一度聞いてご覧。人が襲いかかってきたのかしら
お桃は首を傾げた。奉行は松乃の横ではっとした表情になった。
お桃
お桃
どういうことですか?
松乃
松乃
私は泥棒の時の遺体を直接見たことがあるの
考えてもわからない。お桃はそれがどうかしたのかと尋ねた。
松乃
松乃
泥棒の時は抵抗した跡が見られなかったの。…ほら、これと同じように
松乃は遺体を指さした。確かによく見るとこの遺体は抵抗したような跡が見られない。刺し傷がなければ突然倒れたように見える、ごくごく自然な体勢だった。
お桃
お桃
わかりました。この事を踏まえ、もう一度聞いてみます
松乃
松乃
頼りにしてるわよ
お桃
お桃
ねえ、入り口から入ってきた人が襲ってきたの?
魂
…違う。気づいたら、こうなっていたの
お桃
お桃
えっ!?
松乃
松乃
入り口から人が襲ってきたのではないのね
奉行
奉行
だとしたら…
入り口以外に外と通じているところは、竈の上の窓だけだ。しかしそれは人が入れるほどの大きさはない。
奉行
奉行
…妖のたぐいか?
松乃
松乃
もう…何言っているんですか
松乃はお桃を見た。視界に柱が入った。
松乃
松乃
…あれ?
お桃
お桃
どうしたんですか?
松乃は柱を指さした。釘か何かが刺さっていたような傷がある。
松乃
松乃
こんな傷、ついてたっけ?
奉行
奉行
いやあ…いつも見るようなものではないからうろ覚えだが、確かに自然につくようなものではないな。誰かが付けたか…
お桃
お桃
えっ…じゃあこの傷をつけた人が襲った、ということになる可能性がありますよね
奉行
奉行
だな。とりあえず、遺体は別の場所に移動させておこう。ここで炊事をするわけには行かないし
奉行は役人を呼び、遺体を外に運ばせようとした。その時、たもとのあたりから金属がこすれる音がした。
奉行
奉行
何の音だ?
役人の一人が袂を探り、中から巾着を取り出した。中には一朱金が数粒入っていた。
奉行
奉行
これは…なくなっていたと思ったらこいつが盗んでいたのか…
お桃
お桃
じゃあ襲った人は咎人を狙っている…?
松乃
松乃
そうかも知れないわね。…かと言って保護できるわけではないし
お桃
お桃
そうだよねえ

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