背の高い女性が目の前に立っている。
彼女はおれがいることに気づき微笑む。
『愛しいあなたへの歌よ』
そう言うと、彼女は声高らかに歌い出した。
懐かしくて、温かい。
でも、この声を聴いているとなんだか怖くなる。
彼女が遠くに行ってしまうような。
そばへ寄ろうとするが
彼女とおれの距離は不思議と離れていく。
『、、、、っ!』
『、、さん、!!』
『かあさんっ、!!』
時計を見ると13時だと気づく。
雑談をしながら2人でご飯を食べる。
晴琥が箸を置いて食べるのをやめる。
母はとても綺麗な声の持ち主だった。そして、母の血を“継がなかった”はずのおれも、生まれつき透き通った声をしていた。
おれはいわゆる孤児というもので、街に捨てられているところを彼女に保護され、親子となったのだ。
血の繋がりはなく、髪の色、目の形、笑い方、
何もかもが違かったが唯一同じなのは
歌が好きなところ。
彼女は“母”であり“親友”だった。
何もかもが変わってしまったのは
中学2年生の夏。
おれたちは近所の夏祭りで歌を披露した。
初めての舞台にしてはうまくいったと思う。
あのとき、彼女から目を離してしまったことを
酷く後悔している。
振り向くと、そこには血まみれの母が倒れていて
通行人の罵声や悲鳴、落ちている刃物、そして取り押さえられている男を見てようやく、母は通り魔に刺されたのだと気づく。
声にならない叫びだった。
その後救急車で病院へ運ばれたが、運悪く刺されたのは喉で、帰らぬ人となった。
『毎日こうして、一緒に歌いましょう』
そう言ってくれた彼女との日々は夏祭りで終わった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。