-You side-
静かな夜の気配のなかで、ジミンがそっと言った。
私が返事をする前に、
その目が、すでにすべてを語っていた。
ためらいと、覚悟と、切実なほどのやさしさ。
そう頷いたとき、
ジミンの指先が、もう一度私の手を探す。
その手のひらは、すこしだけ汗ばんでいて、
それが愛おしかった。
今度のキスは、ゆっくりとしたものだった。
最初に触れたのは唇の端。
それから、ためらうように少し引いて、
また、そっと真ん中に。
彼女の息が、私の息と重なる。
まばたきを忘れるほど、長い瞬間だった。
静寂のなかで、ふたりだけの呼吸が、
かすかな音を立てて重なった。
それは、恋という言葉でさえ追いつけないものだった。
ジミンが、すこし離れる。
小さく呟いたその声は、
どこか恥ずかしそうで、笑っていた。
私もつられて笑う。
ジミンは、まだ私の手を握ったまま、
頬を指でかいている。
そう言ってみたら、
ジミンの瞳がまっすぐ、私を見る。
まっすぐだった。
その視線に、私は逃げ道をなくして、
でも、逃げたいとも思わなかった。
自分でも驚くくらい、静かに、自然に言えた。
その言葉を言うことが、こんなにも軽くて、
こんなにも重たいのだと、私は今やっと知った。
ジミンの目が、ほんの少し潤んで見える。
と言って、彼女は私の肩に頭をあずける。
それは、ふたりにとって、
すごく自然な姿勢だったと思う。
気づけば映画はもう終わっていた。
モノクロの映像は黒い画面へと
フェードアウトしていて、部屋の照明も消えたまま、
暗がりだけがそこにあった。
でも、その暗さはもう怖くない。
ふたりでいる夜の闇は、やわらかい影に満ちている。
それは、心の中にある不安やためらいが、
少しずつほどけていって、夜に溶けていく感覚だ。
私は、ゆっくりと息を吸い、
ジミンの髪に、静かに触れる。
ジミンが、小さく顔を上げた。
私が見下ろす位置にいるジミンは、
少しだけ不安げで、でも、その不安の下には、
希望の光が宿っているようにも見える。
私はそれに応えるように、ゆっくりと言葉を置いた。
ジミンは、なにも言わなかった。
ただ、その目がゆっくりと細くなって、
ほんの少しだけ、泣きそうになっていた。
ジミンは、そっと微笑む。
そして、もう一度、ほんのすこしだけ、
私の肩に寄りかかってきた。
その体温が、たしかに私の肌に触れている。
やわらかな影に重なるように、
そっと、ふたりの距離が縮まっていく。
これが恋だと、
これが関係の始まりだと、
誰かに名前をつけてもらう必要はなかった。
ジミンが、あの夜のように、小さな声で言った。
私は、今度は頷いた。
ふたりの間の沈黙は、
もう、なにも隠す必要のないものだった。
夜の深さの中で、ふたりの呼吸が、
寄り添うように重なっていく。
やわらかな影の中で、
私たちはきっと初めて、ほんとうに近づいた。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。