第7話

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2026/03/16 03:00 更新


 廃工場の静寂の中で、私の指先から伸びた
 【曼珠沙華】の糸が、淡い桃色の光を放ちながら
 霧散していく。 今の光は、明らかに鬼のではない。

 四季
 「……今の、なんだよ」

 四季くんの声が、震えていた。
 私を守るために出した銃の存在も忘れ、
 彼は信じられないものを見るような目で私を見つめている。

 四季
 「お前……今、何したんだ?」

 あなた
 「私は……。ただ、皆を守りたくて……」

 言い訳を探す私の言葉を、神門くんの冷徹な声が遮った。

 神門
 「無駄だよ。隠せる段階はもう過ぎた。」
 「……鬼の『血蝕』の中に、我ら桃太郎の『浄化』の気が
  完全に混ざり合っている。」
 「あの日感じた違和感はこれだったか」

 神門くんがゆっくりと歩み寄る。
 彼の瞳には、敵意よりも「解明すべき異常」に対する
 純粋な好奇心が宿っていた。

 神門
 「君、自分が何者か分かっているのか?」
 「桃太郎と鬼……相容れぬはずの血を同時に宿すなど、
  存在自体が歪だ」

 あなた
 「歪……」

 その言葉が、私の胸に深く突き刺さる。
 やっぱり、私はここにいてはいけない存在。
 四季くんたちの「仲間」でいていいはずがないんだ。

 四季
 「……黙れ、神門」

 不意に、四季くんが低く唸るような声を上げた。
 彼は私に背を向けたまま、再び銃を神門さんに向けた。

 四季
 「歪だろうがなんだろうが、俺たちの救護班だ」
 「……お前の御託を聞くためにここにいんじゃねえんだよ!」

 あなた
 「四季くん……」

 神門
 「……気づいているんだろう、四季くん。」
 「彼女の存在が、いずれ君たち鬼の『血』を骨抜きにする。」
 「その浄化の光は、君たちの破壊の力を否定する光だ」

 神門くんの言葉を証明するように、
 私の中の【無垢なる聖域】が神門くんの桃の力に当てられて
 さらに強く発動し、周囲に漂う「鬼の気」を消し去っていく。
 四季くんの身体が、一瞬、力が抜けたようにぐらりと揺れた。

 あなた
 「(……私の力が、四季くんを弱くしてる……)」

 ショックで動けなくなる私。
 神門くんがその隙を見逃さず、
 私を捕らえようと手を伸ばした、その時。

 京夜
 「—— 俺の愛しい従妹と話した罰」
 「まだ、受けてなかったよな?桃太郎さん」

 爆圧。 工場の天井を文字通り「粉砕」して、
 深紅の閃光が降り注いだ。

 あなた
 「京夜さん……!?」

 土煙の中から現れたのは、
 書類仕事で留守番をしていたはずの、
 血走った眼をした京夜さんだった。
 彼の周囲には、いつもとは比較にならないほど
 濃密で凶悪な血触解放の力が檻のように展開されている。

 無人
 「京夜……! お前、書類は…」

 無陀野先生の声が空しく響く中、
 京夜さんは私の前に立つと、神門くんを殺気だけで射すくめた。

 京夜
 「書類? あー、あの大量の資料?」
 「あなたちゃんがナンパされてる気配を感じてさ」
 「全部食べてきちゃった☆(物理)」
 「……んで、桃太郎さん。あんまり俺の家族をいじめるなよ。」
 「……俺が本気で、この世界を『始末』したくなる前にさ」

 京夜さんの「俺」という一人称が、地鳴りのように響く。
 彼は私の秘密がバレたことなど、最初から知っていたかのように、
 ただただ「私を守る」という一点において神門さんを睨みつけていた。



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