ここ最近、気掛かりな生徒が
その生徒とは3ヶ月ほど前に転校して来た十条あなた
十条は富良洲高校では俺の生徒であり錬金術師としては階級が一つ下の後輩だ
十条の様子が気にかかるようになったのは
鶴原が意識を操られドレッドになった時からだ
十条は、鶴原と同じで話すのが苦手で
俺ですら十条の生の声はあまり聞いたことがない。
だがよく鶴原と十条はアイザックを使って2人で
コミュニケーションをとっていた
が、あの日から楓は勉強も上の空で成績は落ち
鶴原が戻って来てからは、顔を合わす事を避けるような態度やアカデミーに来ない日も続いていた
とある日の昼休み、時間を見計らい教室へ行き
十条に声をかけた
だが、ぼーっとしているのか無反応
そこで一ノ瀬に声をかけてもらった
一ノ瀬の声かけに我に戻ったかの、ハッと反応した
そしてこちらへと急足で向かってくる
歯切れの悪い返事だった
そう言って十条は教室内へと戻っていった
放課後、いつもより早めにアカデミーへと向かう
いつものように壁へ向かう上がる
アカデミーの中へ入ると指輪を付け替え服装を変える
そして教室の扉を少し行った先で待っていると十条がやって来た
十条は動揺を隠すかのように俯いた
俺は肩に手を置こうと伸ばしたが
そのタイミングで鶴原と銀杏が
そしてそれに続く形で一ノ瀬と九堂、黒銅スパナまで来てしまった
アイザックの言葉で十条に目線を移すと
涙が落ちた手が見えた
鶴原が一歩、近づいた時
十条はその場にいた全員を押し除けるように間を通り
アカデミーを飛び出した
俺は指示を出しアカデミーを後にする
周辺を探してみたが姿は見当たらず
あれから1時間近く探し
十条の姿はあの場所が見える河川敷にあった
膝を抱え込むように座っていた
呼びかけてもやはり反応がない
声のトーンを変え再度呼びかけてみると
意識が我に戻ったかのような感じで
こちらを振り返る
十条が身構えないようにと指輪を付け替え
高校教師の服へと戻る
それを見た十条も錬金術師から高校の制服へと変わる
そして慌てて立ち上がった
十条が再び腰を下ろしたのを見て
その横に俺も腰を下ろす
その質問に俯き手を握り込んでいた
しばらく間が空いてから十条は話し始めた
気づけば十条の目からは涙が溢れていた
自身を否定するような言葉を放ち
指輪をはめている方の手ををベンチへと打ちつけた
俺はその手を掴み
座る十条と目線を合わせるために正面にしゃがむ
きっとこの短い期間で十条は
"あの時、自分が動いていたら止められたかもしれない"
"鶴原を辛い目にあわせてしまった"
"何もできなかった自分に対しての苛立ち"
"鶴原への申し訳なさ"
そんな思いを溜め込み自分1人で処理をしようとしていたのだろう
担任として先輩として気づけなかった
自分が不甲斐ない
そしてその溜め込んだ反動が大きかったのか
視線を合わせるのもやっとの思いだった
目を合わせ乱れた呼吸を整わせるために空いている
方の手で背中を摩る
その後、十条が落ち着いたのを見計らって
家まで送り届け、アカデミーへと戻った
そして指輪を付け替え服を変え教室へと入る
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。