第10話

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2024/05/03 09:00
頬に付いてしまっている涙の粒を服の袖で拭きながら,ハーデンベルギアの髪飾りを手に取ってみる.


紫色の花弁の部分が所々キラキラと光っていて,とても優雅な美しさを放っている.


机の上の,私の大切な物を入れている箱に,そっとそれを入れた.


その横に,オルゴールも置いて.

及川徹.
ただいまー!
及川あなたの下の名前.
……っ!

下の階から元気の良い,お兄ちゃん・・・・・の声が聞こえてくる.


今,この顔を見られたら笑われてしまうかもしれない.


その一心から,部屋の扉の鍵を閉める.


もしかしたら,入ってくるかもしれないと考えたからだ.


暫く扉を見つめていると,

及川徹.
コンコンコンッ))あなたの下の名前ちゃん,いる?

と,お兄ちゃんが声をかけながら扉をノックしてきた.

及川あなたの下の名前.
……何か用?

少し冷たい声になってしまった,と後悔をしながら応答する.


もしかしたら,逆に私が嫌われてしまうのでは……と今更ながら怖気付いてしまった.


返答がなく焦っていると,お兄ちゃんは口を開いた.

及川徹.
……箱の中,見た?
及川あなたの下の名前.
……見たよ
及川あなたの下の名前.
ありがとう,お兄ちゃん……大切にする

気恥ずかしい,と思いながら「 お兄ちゃん. 」と呼ぶと,またもやお兄ちゃんは黙り込む.


少し心配になって扉を開けてみると,少し泣きそうな顔をして立っていた.

及川徹.
お兄ちゃんって……呼んでくれたし……タメ語になってるし……!
及川徹.
及川さん,嬉しくて泣きそうっ……!
及川あなたの下の名前.
え,あ,ちょっ

私の肩に顔を埋めてくるお兄ちゃんの声は,完全に鼻声だった.

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