頬に付いてしまっている涙の粒を服の袖で拭きながら,ハーデンベルギアの髪飾りを手に取ってみる.
紫色の花弁の部分が所々キラキラと光っていて,とても優雅な美しさを放っている.
机の上の,私の大切な物を入れている箱に,そっとそれを入れた.
その横に,オルゴールも置いて.
下の階から元気の良い,お兄ちゃんの声が聞こえてくる.
今,この顔を見られたら笑われてしまうかもしれない.
その一心から,部屋の扉の鍵を閉める.
もしかしたら,入ってくるかもしれないと考えたからだ.
暫く扉を見つめていると,
と,お兄ちゃんが声をかけながら扉をノックしてきた.
少し冷たい声になってしまった,と後悔をしながら応答する.
もしかしたら,逆に私が嫌われてしまうのでは……と今更ながら怖気付いてしまった.
返答がなく焦っていると,お兄ちゃんは口を開いた.
気恥ずかしい,と思いながら「 お兄ちゃん. 」と呼ぶと,またもやお兄ちゃんは黙り込む.
少し心配になって扉を開けてみると,少し泣きそうな顔をして立っていた.
私の肩に顔を埋めてくるお兄ちゃんの声は,完全に鼻声だった.
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!