訓練場の空気は、鉄と汗の匂いが混ざってる
朝からの稽古で、あちこちから打ち合う音と息遣いが聞こえてきた
俺が呟くと、隣にいたハヤトが静かに笑う
白シャツの袖をまくりながら、手に持った端末を見つめていた
刀也が正眼に構え、正面のガクが必死にそれを受けている
金属の打ち合う音が鳴るたびに、訓練場の空気がピンと張る
刀也の声に、ガクが反射的に応じて踏み込む
足の運びはまだぎこちない。けど、あの真っすぐな目つき──
焦げ茶の瞳が、一切迷ってなかった
ハヤトは穏やかに笑っていた
けど、その眼の奥は鋭い。彼もまた、ガクの内側を正確に見抜いてる
俺は少しだけ息を吐いた
あの日、教会の廃墟で見つけた時の、怯えた目はもうない
“誰?”と震えていた声が、今は“はい!”と強く響く声になってる
あれからほんの数週間で、だ
ルフュージュの中に馴染むのが早すぎるくらいだな
──それだけ、必死なんだろう
打ち合いが一瞬止まる
ガクが息を荒げ、肩で呼吸している
刀也が構えを解かずに言った
返事のあと、ガクは額の汗を拭う間もなく前に踏み込む
その一瞬、俺の胸の中に小さく“やるじゃん”という感情が浮かんだ
ハヤトも頷きながら記録端末に何かを書き込んでる
場の向こうからガクの声が飛んだ
俺たちの話が聞こえていたらしい。結構距離はあるのに…なぜ気づいた?
それに気づいた刀也がすかさずツッコミを入れる
その返事の速さに、俺もハヤトも思わず笑ってしまった
刀也が呆れ顔で髪をかき上げる
でも、その声にはちゃんと“優しさ”が混じってた
そう言って訓練を一旦止める
剣持が腰の刀を鞘に納め、ガクがその場にへたり込みそうになりながら、必死に立ってた
手にはまだ震えが残ってる
俺が言うと、ガクがぱっと顔を上げた
そして──
手を大きく振って、笑顔を向けてくる
その笑顔があまりに無邪気で、思わず口元が緩む
刀也が慌てて叫ぶ
けど、その声にもどこか焦りより呆れが混ざってた
完全に“弟を叱る兄貴”って感じだ
刀也に小突かれて頭を下げるガク
でも、ちょっとだけ嬉しそうに笑ってる
──こいつ、ほんと素直だな
ハヤトがくすっと笑った
俺は静かに頷く
ルフュージュに来てから、まだ日が浅いのに
もう、あの場所に“自分の居場所”を見つけたみたいな顔してる
教会の件が頭をよぎる
同じ“保護”を掲げて、人を利用してた場所
そこから救い出せた命が、今こうして笑ってる
それだけで十分、報われた気がした
ガクが刀也に再び呼ばれて立ち上がる













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。