第17話

≠ 15
122
2026/01/25 08:35 更新
あなた
それじゃあ、私、もう行くね
萩原研二
もう、そんな時間か…
松田陣平
本当に、向こうに行くのでいいのか?
あなた
うん。…私にはたぶん、見守るだけ、なんて耐えられないから…


自嘲気味に笑ってみせる。
松田陣平
そうか
あなた
降谷が来たら、また
諸伏景光
その時は、6人で
あなた
うん
伊達航
元気でな…って、これはなんか違うか
あなた
んー、別にいいんじゃない?
…まぁ、とにかく。また会おう
萩原研二
そうだな
松田陣平
何十年後とかになるかもしれねーがな
諸伏景光
ゼロには100歳まで生きてもらうつもりだから
伊達航
そん時まで待っててくれ
あなた
うん、もちろん


この暖かい雰囲気をぶち壊すかのように声が言った。
お別れの挨拶は、そろそろよろしいですか?


まだダメだ。

そう言いたいけれど、時間が押しているのかもしれない。
まだまだ、話し足りない。

それはみんなも同じなようで、寂しそうな表情をしている。
よろしいようでしたら、渡し守を呼びつけますが、いかがなさいますか?


疑問符が一応付いているけど、イエス以外受け付けていないような声色だった。
あなた
…うん。そうして


どこかで絶対に覚悟を決めなきゃいけないのなら、もう、決めてしまった方が楽だ。
私は、仕方なく、しっかりと頷いた。
かしこまりました


向こう岸が少し光ったので目を向けると、どこからともなく小さな舟と、それを漕ぐ渡し守が現れた。
どんな風貌なのかはさっぱりな程遠くにいて、舟と渡し守がセットで豆粒サイズだ。

ゆっくりと、ゆっくりと、流れる雲のような速度で、こちらに向かってきている。

本当は漕いでいるフリをしているだけで、こっちに向かってきやしないんじゃと疑ってしまうほどに、ゆったりと。
ようやくどんな見た目をしているのかが分かるほどに近づいてきた。
しかし、ある場所で泊まって動かなくなった。
あなた
あの…あれ以上ここに来ることはないの?
はい。あそこに向かってもらいます
あなた
そうなんだ…


改めて振り返って、みんなにお礼を言おうと思った時。

もう、誰1人そこにはいなかった。

寂しさを感じながら、声に従って歩く。

歩いていくと、川のほとりにはたくさんの彼岸花が咲き誇っていた。
そして、その傍らに2人、いや、2匹か…?の、鬼のような風貌の者たちがいた。
六文銭はお持ちですか?
あなた
六文銭…?
所有していない場合、奪衣婆だつえばに服を剥ぎ取られ、懸衣翁けんえおうに渡され、枝にかけられます。
その枝のしなり具合によって罪の重さを量るのです
あなた
罪の重さ…


私は、慌ててポケットの中を探った。

すると、ズボンの右ポケットが、ジャラッと音を立てた。
中のものを全て取り出して、奪衣婆に渡す。
あなた
これで足りる?


奪衣婆は、舟を指さした。
あなた
乗れってこと?
そうです。お乗り下さい


言われるがまま右足を舟に乗せる。

すると、重さなんて無いはずなのに、舟が少し揺れる。

舟に座って、渡し守の舵に身を任せる。
川の中央に差し掛かった時、眩い光に包まれた。


今度は、目を刺すような、強い強い光ではなく、眠ってしまいたくなるような、柔らかく暖かい光だった。


後悔しないはずだった。

降谷を助けたら、何かが報われると勘違いしていた。
どうしようもなかった過去への、慰めをしたつもりだった。
なのに。
あなた
(生きていたかったな…)


その念だけは、消えることはなくて。

向こう岸に近づくにつれて、強くなっていった。

どれだけ、胸が潰れそうな程の後悔をしたとて、それを吐き出す術はない。
死ぬということがどういうことなのか、ハッキリと突きつけられた気分だった。


川の流れは私の気持ちを落ち着かせてくれるようで、岸辺に近づくにつれて、気持ちは不思議と凪いでいった。

白く柔らかな光が収束していき、さっきまで居た桃源郷のような世界を一段と幻想的にしたような世界が広がった。
もしもここが天国なのなら、どれほど素敵な場所なのだろうか。

吸い込まれるように、1歩、足を踏み出す。

後悔など、無くなっていた。

それが怖くもあり、嬉しくもあった。


私は、毛布に包まる小さい子供のように、暖かな光が降り注ぐこの地に寝転び、目を閉じる。


三途の川のほとりに、一輪の彼岸花がふわりと咲いた。





[完]

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