第28話

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2026/09/19 08:00 更新




〈数日前〉


凛
凛
…どうしよう……
春美は、今日も僕に挨拶をしないで、学校に行ってしまった。

この数か月、いっつもこうだ。僕に顔を合わせずに学校に行って、帰っていると気付いたら既に部屋に籠もっている。最後に顔を見たのは、また一ヶ月ほど前だ。そのときでさえ、目の下のクマが大きくて、不健康な見た目をしていた。
凛
凛
……いじめ…られてたりするのかな…
実は、春美が家にいる頃、時々部屋に耳を傾けてみていたのだ。そのたんびに、小さくすすり泣く声が聞こえていていた。春美らしくない、弱々しい声だった。勿論、確信しているわけではないけど…。
凛
凛
…うーん……、決めた!今度こそ、春美に理由を聞くんだから!
このまま、春美と話せなくなるのはイヤだからね。家族なんだから!
そう決意して、僕は教材を持ったまま、理科室に行く足を速めた。でも、そのとき。


ドンッ
凛
凛
っわ
?
おっと
前をちゃんと見ていなかったからか、曲がり角から出てきた人にぶつかってしまう。速度を上げていたせいか、目の前の人はバランスを保てずに転んでしまった。
凛
凛
(わわわわっ……!まずい、転んじゃった!)
凛
凛
す、すいませんっ!大丈夫ですかっ…
焦って、咄嗟に手を伸ばし、その人の眼鏡を拾う。自分もしゃがみ込み、顔がしっかりと向き合うようにする。
凛
凛
本当にすみません…!はい、これ……

顔をあげたそのとき、僕はしばらく目を離すことが出来なかった。


莉付
莉付
…え、…あ………







凛
凛
(あ、れ?)
この人、僕に似てる?髪色も、顔立ちも、僕にそっくり。

けど、それ以上に……。




『それではご覧ください!』
凛
凛
っ…!?
綺麗な女の人の声が、頭の中に鳴り響く。初めて聞いたのに、何故か、胸の中がザワザワしている。
『ID-F86はこの惑星に飛来して以来、多くの原生種に対し侵略活動を続けてきました』
『危険性を憂慮した研究対策チームはその対象を捕獲』
『以来、当研究所にてID-F86の持つ空間転移能力の研究開発が始まり』
絶え間なく鳴り響くその声が、僕の心を恐怖で埋め尽くしていく。なんで、怖いのかも分からない。ただ、この声が止まってくれるだけでいい。
そんな僕の願いも虚しく、今度はそれに加えて、色んな声が混ざってしまう。
凛
凛
(なにっ…、なにこれ、なにこれっ!?「ID-F86」?「ラボ•ディスカバール」?知らないよそんなのっ…!!)
怖い声だけじゃなくて、懐かしい気がする声もある。心なしか、春美や晴くんに似てる感じがした。でも、僕はだんだんと息が荒くなる。
凛
凛
(色んな声がありすぎてっ…、気持ち悪いっ……!!)
誰か、助けて。

誰か…。もう、聞きたくないっ、





莉付
莉付
落ち着け!それは私の記憶だっ!!
凛
凛
っ!
目の前の人にそう言われて、僕の頭の中に鳴り響いてた声は、ピタリと止んだ。僕の体に響いているのは、鼓動と荒い呼吸のみ。
莉付
莉付
落ち着け、呼吸を整えろ。ゆっくりでいい…、深く息を吸え
指示通りに行動する。今、彼が何を思っているのかは知らないけど、僕の呼吸は少しずつ落ち着いてくる。
莉付
莉付
迂闊だった…、接触するだけで記憶が蘇ろうとは。大丈夫か、私の片割れ
凛
凛
…なにが
殆ど、無意識に声が出た。
莉付
莉付
え
そんなことは、全く考えていなかったけど、心の中の誰かが、僕の口を借りて言った。
凛
凛
「私の記憶」なの…、僕の記憶でもあるのに



あれ。
凛
凛
(今…僕、なんて言った?)
自分の言ったことが理解できない。今さっき頭に流れた映像は、今まで見たことがないはずのものなのに。…なのに……、なんで…。この胸の中で荒ぶっている感情は、誰のものなんだろう。
少しの間、沈黙が走る。お互い体制を変えないで、そのまま。やがて、授業を始める知らせのチャイムが鳴り響いた。
凛
凛
(あ…、授業が)
莉付
莉付
そうだな
彼が口を開く。僕はハッとして、目の前の男に顔を向ける。
莉付
莉付
確かに……、お前の記憶でもあったな
それだけ言い、彼は僕が落とした眼鏡を拾って立ち上がる。
莉付
莉付
…私の名前は、杉原(すぎはら)莉付(りふ)。学年は三年三組、数ヶ月前、ここに転校してきた。
彼…莉付は自身の名前など、簡単な自己紹介をして、僕の顔を見る。莉付は、僕のことをジッと見つめたまま続ける。
莉付
莉付
お前の名前は?それと、学年も
凛
凛
え………星彩(せいこう)凛、で、一年一組…です
僕の紹介も終えると、莉付は「そうか」とだけ返して、元々歩き進めていた方角へ体を向けた。


莉付
莉付
放課後、私がお前を呼びに行く。少し話をしよう


そう言って、莉付は背を向けて歩き始めた。

しばらくその背中を眺めていたけれど、授業のことを思い出して、僕は理科室に急いだ。
凛
凛
……
何を思っているのかは知らないが、凛は上の空の様子でリュックに教科書をしまっている。時々教科書の端が突っかかっていたりするが、まあ無理もない。
莉付
莉付
…
眼鏡をしっかりとかけ直して、扉に数回ノックをする。
クラスメイト
はーい、どうしたんですかー?
莉付
莉付
すいません。星彩凛という子は居ますか?
対応してくれた女生徒は頷くと、声を張って凛の方向を向いた。
クラスメイト
凛くーん、呼ばれてるよー!多分、三年生の人!
凛
凛
っ…!う、うん…今行く!
凛は慌ててリュックを背負い、駆け足でこちらに向かった。女生徒には軽く感謝を伝えて、ゆっくりと私の顔を見上げる。
凛
凛
…こ、こんにちは……
莉付
莉付
………こんにちは。ここで立ち話をするのもなんだし、途中まで、一緒に下校しない?
軽く口角を上げて、そう提案する。凛は少し驚いたようで、その後の言葉は上手く話せなくなってしまっている。
凛
凛
え…?で、でもっ…僕の家は少し遠いですし……
莉付
莉付
(…はぁ…)
おどおどと戸惑っている様子を見ると、少し腹が立ってきた。凛の手を力強く掴み、昇降口に向かって足を動かした。体を引っ張られたせいで、凛はしばらく自分の足を動かすことが出来ない。
凛
凛
ちょ、ちょっと!?
莉付
莉付
問題はない。星のカービィ…じゃないな、今は春美だったか?彼とは家が近いことも把握している。兄弟なのだろう?
「カービィ」
その単語を聞いた途端、凛は足を止めた。振り返ると、私の顔を眉をひそめながら見つめている。
やはり、先刻の出来事で思い出しているか。
凛
凛
…やっぱり、…貴方は……
莉付
莉付
ああ



莉付
莉付
前世はフェクト•エフィリスだった。そして、お前は私の元片割れだ
莉付
莉付
名前くらい、分かるだろう
顔を進行方向に向き直して、私は歩くのを再開した。

凛は私に手を引かれたまま、ぼそりとその名を呟いた。



凛
凛
………エフィリン……













とは言え、越してきたばかりなので、この地にさほど詳しいわけではない。人気がない場所を凛に聞くと、家に近い公園を提案されたので、そこに向かった。

椅子に腰をかけ一息つくと、凛が話を切り出す。
凛
凛
…えっと……あの
凛
凛
貴方…は、本当にエフィリスなの……?
それどころか、記憶が本当に正しいのか疑い始めてきたようだ。無理もない、それを思い出したのは数時間前のこと、定着するには時間がかかるだろう。
莉付
莉付
ああ
莉付
莉付
…今は莉付という名の一般人、記憶を持っただけの弱い存在さ
眼鏡を外して、私は答える。転校したと同時に伊達(だて)眼鏡をかけ始めたが、邪魔で仕方が無い。
凛
凛
……今は、何してるの?
莉付
莉付
社会人の兄と二人暮らし。父親は他界したし、母親はとうの昔に何処かに消えた。至って普通の生活をしてるだけだ
凛
凛
…そっか……
少し気まずそうに、凛は相槌を打つ。私としては本当に気にしていないのだが、親の話で変なことを考えているのだろうか。  

まあ、今はどうでもいい。
莉付
莉付
……記憶を思い出したからと言って、前世のことを重く話す気はない。私は、兄と二人で過ごすだけで満足しているしな
凛
凛
そ、そう………


莉付
莉付
…だが




その場に少し沈黙が走る。このことを話すか、迷ったのだ。

正直、自分には関係のないことだ。前世の私と比べたらまともな扱いだったし、彼に絡んでいる女生徒で対応できそうではある。
莉付
莉付
(…でも)
凛の顔を見る。私が何を話すのか、興味深そうな顔をしてジッとしている。
その心の奥では、きっと彼のことを考えているのだろう。
ため息を吐き、拳を軽く握った後、喉から言葉を吐き出した。









莉付
莉付
前世の縁だ。お前の兄…春美を、同じ弟として、助けたいと思う
私が見たことを聞いてくれるか。
凛に、そう伝えた。












凛も何か察していたのだろうか。自分の兄に、何かしらの異変が起きていると。




数秒間黙った後、凛は何かを決意したのか、静かに頷いた。











〈起動開始……〉




〈成功しました〉



















〈新たに観察できる個体が増えました。よって、その個体の情報を表示します〉


〈ダウンロード開始……成功しました〉

〈また、個体『星彩凛』の称号の読み取りに成功しました〉

〈データ更新……成功しました〉





〈情報を表示します〉
『星彩(せいこう) 凛(りん)』
エフィリンの生まれ変わり。
江野原中学校 一年一組 13歳 男
異母兄と暮らしている。

《所持している称号》
•再度生を受ケル者
•時空を超エル者←new
『杉原(すぎばら) 莉付(りふ)』
フェクト•エフィリスの生まれ変わり
江野原中学校 三年三組 15歳 男
社会人の兄と暮らしている。

《所持している称号》
•再度生を受ケル者
•時空を超エル者





〈……制限の限界が来ました。**は活動を停止します〉


〈シャットダウン開始……〉














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