「なんでここにいんの？」


不機嫌そうにそういう彼に私も少しイラついて、きつい口調で言い返す。


「そちらこそ。私は、たまにここにくるの。ここなら、“好きな人"のことを思い出せるから」


「ふーん」


興味がないとでもいうように、彼はそう呟く。


「で？あんたはなんでここに？」


私がそう聞くと、彼は気まずそうに目を逸らした。


「女がバカみたいに追いかけてくるから………ここなら、誰も来ないんだろ？」


………何にも、変わってない。


そう思って、少し笑ってしまいそうになるのを我慢する。


そして、ごまかすように声を上げた。


「そうだったね。でも、もう”誰も"来ないわけじゃないよ」


私がそういうと、彼は少し考えるそぶりをする。


そして、顔を上げた。


「なぁ、俺ら＿＿」


その言葉を遮って、私は彼に話しかける。


「私達って、なんにも変わってないよね」


「……………え？」


彼は、驚いたような顔をしている。




きっと、彼が私に言いたかった言葉は＿＿。

『なぁ……俺ら、少しは変われたかな』

だったのだろう。


言い切る前に答えられて、彼はなんとも言えない顔をしていた。


「だってさ？"女の子が来ないところ"で、ここを思いついたわけでしょ？」


私がいうと、彼は気まずそうに顔を伏せる。


「ほらね、変わってない」


そう言って、私は笑った。


私の言葉に、彼はゆっくりと顔を上げる。


その顔は、心なしか驚いているように見えた。


「……私が笑うの、そんな珍しい？」


「いや、俺と別れてから、全く笑ってないって聞いたから」


大方、母にでも言いたのだろう。

どういうルートでかは知らないが。


そんなことを考えながら、私は再び彼に話しかける。


「もう、いいの。今考えれば全然顔も性格も似てないし、あの人と重ねるだけ失礼だって思ったもの」


少しふざけるようにそういえば、「おい」と彼から言葉が返ってきた。


何がかはわからないけど何かが面白くて、私は少し笑う。


「それに、もうここにはいないってなんとなく分かったから」


彼から「なんとなくかよ…」という言葉が返ってきたが、私は構わず後ろを振り向いた。


いつの間にか朝日は上の方まで上っていて、辺りはとても明るい。


そんな朝日を眺めていると、後ろから声が聞こえてきた。


「俺、お前のこと好きだよ」


「は？」


思わず振り向いて彼の顔を見つめると、彼はほんの少し照れた様に笑った。


「"家族"として。だけど」


揶揄うような口調に、私は少し呆気に取られて、それから笑った。


私を家族だと言ってくれた事が嬉しくて、自然に顔が綻ぶ。


「そーなの？………ありがと」


それから、自分の後悔を口にする。


「私さぁ？さっきも言ったけど、付き合ってる時、あの人と重ねてた」


「うん、知ってる」


「自分にために、好きでも無いのに好きって言ってた」


「うん、それは俺も一緒だよ。あの頃は少しも興味無かったのに、人前で好きだとかなんとか言ってたりして。悪いのはお前だけじゃない」


そんな謝罪をずっと続けていて、気づけば太陽は西側で真っ赤に染まっていた。


「まーでもさ？全部終わった事なんだし、もうどうでもいいよ。それに、俺はあいつに頼まれてたしね」


「え？」


「あいつが死ぬってなったとき、お前をよろしくってさ。まぁ、結局おまえが契約を持ちかけて来たけどな」


ニヤッと笑いながらそう言われて、私は少しだけ恥ずかしくなった。


「やっぱりあの人のこと、大好きだなぁ」


その言葉を合図に、私たちは解散した。


病院に戻ったら薄着のまま丸1日帰って来なかったことを心配した母に怒られたことは、言うまでもないだろう。


新しくできたLINEのトーク画面には、一つのメッセージが送られてきていたと言う。














「これからもよろしくね、お姉ちゃん（  義 姉 ち ゃ ん）」


私は、少し笑ってから病院のベッドに潜った。