第35話

宿泊1
212
2020/03/29 01:00
いつものように壱馬の家でご飯をお呼ばれした後、洗い物を手伝った。いいのにって遠慮するお母様だけど、あたしが『一緒に洗い物するのはなんだか凄く楽しいんです』って言ったら、笑顔で一緒にさせてくれた。

そのあと、壱馬とリビングでまったりしている(今日はレイちゃんはピアノのお稽古らしい)。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
どうしたらいいと思う?
川村壱馬
川村壱馬
なにが
湯浅愛羅
湯浅愛羅
美優になんて言おう?
川村壱馬
川村壱馬
ほんとのこと言いづらいか
湯浅愛羅
湯浅愛羅
うん…
川村壱馬
川村壱馬
じゃあ彼女いるって言って諦めさせた方が傷つかせずにすむんじゃね?
確かにそうかもしれない……。
樹はいいやつだし大好きだけど。恋愛でそういう面をもってるなら、親友に恋をして傷ついてほしくはない。
川村壱馬
川村壱馬
それか…
川村壱馬
川村壱馬
ホントのこと言って…それでも諦められないぐらい好きだったら……応援してやるべきだと思う
湯浅愛羅
湯浅愛羅
え?
川村壱馬
川村壱馬
俺には、あいつを変えてやって欲しい気持ちもある
できるかどうかはわかんねぇけどな、って続けた壱馬は、少し照れくさそうだった。1番仲間のことを考えてるくせに、あんまり表に出さないんだから。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
うん、分かった。ホントのこと言う!
湯浅愛羅
湯浅愛羅
嘘つくのも嫌だし
川村壱馬
川村壱馬
あぁ
ちょっとだけ壱馬が微笑んでくれたから、なんだかやけに嬉しかった。









ガチャ🚪
壱馬ママ
壱馬ママ
あら?  ユウかしら
明日のご飯の下ごしらえをしていたお母様が、濡れた手をエプロンで拭きながら出迎えに行った。壱馬とあたしも誰が帰ってきたのかと玄関に向けて耳をそばだてる。

そして意外な人物。
壱馬ママ
壱馬ママ
カイ、どうしたの?  随分急ねぇ
予想もしてなかった、お兄様のカイさんだった。といいながらも実家なんだから突然帰ってきたっておかしくはない……。壱馬はゆっくり寝転んでいた体を起こす。
カイ
カイ
よぉ
それと同時にリビングに入ってきたカイさんはスーツで、ビシッと決めていた。
カイ
カイ
おぉ、ちんちくりん
湯浅愛羅
湯浅愛羅
それ、あたしのことですか?
カイ
カイ
他に誰がいんだよ
あぁもう。否定はしないけど!  できないけどさ!  ここの家の男はほんとみんな失礼!!
川村壱馬
川村壱馬
黙れよ
カイ
カイ
おーこわ。まぁしょうがないか
カイ
カイ
愛しの''アイラ’’がやっと自分のもんになったんだもんなぁ?
あのとき、迎えに来てくれたときカイさんは『どうして壱馬が君をほっとけないのか分からない』って言ってた。
それは、壱馬もカイさんもあたしを知ってたからなんだ。
川村壱馬
川村壱馬
兄貴まじうるせぇ。行くぞ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あ、うん
あたしを見て立ち上がった壱馬についてあたしも立ち上がる。
素直な行動とは別に、まだ7時半なのに…今日はもう帰るのか、とガッカリはしていた。

壱馬についてリビングを出たら、壱馬は玄関とは逆方向に進んで行く。もたもたしてるあたしをよそに、壱馬は普通に階段を上って行った。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
壱馬?
川村壱馬
川村壱馬
?  …なにやってんだよ
まだ階段の下いるあたしに、上りきった壱馬が首を傾げる。急いであたしも階段を上ると、壱馬は左端にある部屋に入った。
初めて入る壱馬の部屋。。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
おじゃましまーす…
わけの分からない挨拶をいれて部屋に入る。壱馬はすぐにベッドに腰を下ろした。
広い部屋の、右端にベッドがあって、向かいにテレビ。本棚には雑誌やら意外にも難しそうな本まである。ベッドの足元にはさらに意外なプーさんの人形があった。黒い丸机に灰色のカーテン。
この辺は壱馬らしい。
川村壱馬
川村壱馬
何つったってんだ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
か…可愛いね、プーさん
川村壱馬
川村壱馬
あぁ、それはレイの
まだ立ったままのあたしに、かはプーさんを投げた。見事キャッチしたあたしは、ベッドの傍の床に座った。
川村壱馬
川村壱馬
何故か俺の部屋に放置してんだよ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
可愛いからいいじゃん笑
きっと殺風景な壱馬の部屋を明るくしようとしてあげたんだと思う。壱馬が大好きなレイちゃんだから。そのことを微笑ましく思ってたら、ふいに壱馬が聞いてきた。
川村壱馬
川村壱馬
最近どうだ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
え?
川村壱馬
川村壱馬
もう泣かなくなったか?
夜寝るときのことを聞いてくれてるっぽい。おばあちゃんが死んで、泣いてばかりだったから。
だけど───────
湯浅愛羅
湯浅愛羅
うん。もう泣かなくなったよ
笑顔で言うと、壱馬はホッとした様子でベッドに寝転んだ。
何も言わずに、やっぱりただちょっとだけ笑ってた。

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