いつものように壱馬の家でご飯をお呼ばれした後、洗い物を手伝った。いいのにって遠慮するお母様だけど、あたしが『一緒に洗い物するのはなんだか凄く楽しいんです』って言ったら、笑顔で一緒にさせてくれた。
そのあと、壱馬とリビングでまったりしている(今日はレイちゃんはピアノのお稽古らしい)。
確かにそうかもしれない……。
樹はいいやつだし大好きだけど。恋愛でそういう面をもってるなら、親友に恋をして傷ついてほしくはない。
できるかどうかはわかんねぇけどな、って続けた壱馬は、少し照れくさそうだった。1番仲間のことを考えてるくせに、あんまり表に出さないんだから。
ちょっとだけ壱馬が微笑んでくれたから、なんだかやけに嬉しかった。
ガチャ🚪
明日のご飯の下ごしらえをしていたお母様が、濡れた手をエプロンで拭きながら出迎えに行った。壱馬とあたしも誰が帰ってきたのかと玄関に向けて耳をそばだてる。
そして意外な人物。
予想もしてなかった、お兄様のカイさんだった。といいながらも実家なんだから突然帰ってきたっておかしくはない……。壱馬はゆっくり寝転んでいた体を起こす。
それと同時にリビングに入ってきたカイさんはスーツで、ビシッと決めていた。
あぁもう。否定はしないけど! できないけどさ! ここの家の男はほんとみんな失礼!!
あのとき、迎えに来てくれたときカイさんは『どうして壱馬が君をほっとけないのか分からない』って言ってた。
それは、壱馬もカイさんもあたしを知ってたからなんだ。
あたしを見て立ち上がった壱馬についてあたしも立ち上がる。
素直な行動とは別に、まだ7時半なのに…今日はもう帰るのか、とガッカリはしていた。
壱馬についてリビングを出たら、壱馬は玄関とは逆方向に進んで行く。もたもたしてるあたしをよそに、壱馬は普通に階段を上って行った。
まだ階段の下いるあたしに、上りきった壱馬が首を傾げる。急いであたしも階段を上ると、壱馬は左端にある部屋に入った。
初めて入る壱馬の部屋。。
わけの分からない挨拶をいれて部屋に入る。壱馬はすぐにベッドに腰を下ろした。
広い部屋の、右端にベッドがあって、向かいにテレビ。本棚には雑誌やら意外にも難しそうな本まである。ベッドの足元にはさらに意外なプーさんの人形があった。黒い丸机に灰色のカーテン。
この辺は壱馬らしい。
まだ立ったままのあたしに、かはプーさんを投げた。見事キャッチしたあたしは、ベッドの傍の床に座った。
きっと殺風景な壱馬の部屋を明るくしようとしてあげたんだと思う。壱馬が大好きなレイちゃんだから。そのことを微笑ましく思ってたら、ふいに壱馬が聞いてきた。
夜寝るときのことを聞いてくれてるっぽい。おばあちゃんが死んで、泣いてばかりだったから。
だけど───────
笑顔で言うと、壱馬はホッとした様子でベッドに寝転んだ。
何も言わずに、やっぱりただちょっとだけ笑ってた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。