第15話

豪邸
252
2020/06/13 10:58
長谷川慎
長谷川慎
相変わらずデカイな〜壱馬さんち。
じゃ、俺は戻るから
またね愛羅ちゃんって言いながら、慎は爽やかに帰って行った。
ありがとう!って叫ぶとヒラヒラと右手で手を振ってくれた。

そして、また目の前の家に視線を移す。

やっぱでかい。。

なんていうか、敷地がでかい。
まず、だだっ広い庭があって、その奥に洋館みたいなでかい建物。
普通の住宅街のこの場所には不似合いすぎて逆に浮いてるくらい。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
すご……
インターホンどこ?

そう思って玄関の周りを探してたら、でかい扉が開いた
壱馬ママ
壱馬ママ
愛羅ちゃんっ
走ってきたのは美人な女の人。
綺麗なワンピースにカーディガンを羽織っていて、いかにも素敵な奥様。
もしかしなくても、、
壱馬ママ
壱馬ママ
いらっしゃい!
湯浅愛羅
湯浅愛羅
わっ!
壱馬ママ
壱馬ママ
壱馬の母親ですっ
お母様だ!! 見えない! 美しすぎる!!
しかもあたしはなんで抱きしめられてるんだろう。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あ、愛羅です、よろしく…お願いします
壱馬ママ
壱馬ママ
さぁさぁ、入って入って
お母様はあたしの背中を押して中に入れた。
お母様がでてきたでかい玄関は開いたままになっていたみたい。
玄関を入ると、でかい玄関ホールと高い天井が広がっていた。
壱馬ママ
壱馬ママ
どうぞ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
お邪魔します……
あたし、場違いだ。
灰色の制服を適当に来ていてこんな洋館に招かれても不似合いすぎる。
招かれたのはリビング。
シャンデリアあるし、ソファも花柄で高そう。。
……あたしよりも壱馬がこの家が似合わなさ過ぎると思う。

お母様はあたしをリビングに招き入れると嬉しそうに言った。
壱馬ママ
壱馬ママ
さっきね、珍しく壱馬から電話が来たの
湯浅愛羅
湯浅愛羅
珍しいんですか?
壱馬ママ
壱馬ママ
珍しいわ〜愛羅を行かせるから頼むって。わざわざ電話を!
そんな凄いことなんだろうか。あたしにはよく分からなかったけど、お母様が言うのだから珍しいことなんだ。

リビングのソファに座ってと言われたのでそこで待っていると、お母様が紅茶を出してくれた。
壱馬ママ
壱馬ママ
愛羅ちゃん、ごめんね
湯浅愛羅
湯浅愛羅
え?
壱馬ママ
壱馬ママ
壱馬、俺がどうにかするって聞かなくて。
壱馬ママ
壱馬ママ
愛羅ちゃんのこと、よっぽど心配だったみたいなの
お母様もあたしの前に座り、あたしにニコニコ話す。
謝っても笑顔だった。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あたし、嬉しかっです……。
壱馬は1人じゃないって言ってくれました。
ただこれからどうしようって思い悩むあたしを立ち上がらせてくれた。止まらない涙を、(強引に)引っ込ませてくれた。
壱馬ママ
壱馬ママ
そう、良かった
ニコリと笑うお母様に違和感を感じたのは気のせいだろうか――――――。
どこか
悲し気で、何か言いたそうな…。
壱馬ママ
壱馬ママ
ねぇ、愛羅ちゃん
湯浅愛羅
湯浅愛羅
はい
壱馬ママ
壱馬ママ
壱馬のこと、よろしくね
湯浅愛羅
湯浅愛羅
いえ、こちらこそ……お世話になって
壱馬ママ
壱馬ママ
愛羅ちゃんならがんじがらめのあの子を救ってあげられると思うわ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
え?
がんじがらめ?救う?強気な壱馬がそんな風に思われてるのを想像できなくて思わず首を傾げた。
母親に心配かけさせることって確かにあると思うけど、その表現は壱馬には似合わなかった。
壱馬ママ
壱馬ママ
ううん、あんまり気にしないで
だけどお母様はすぐに言葉をかき消すように笑って見事に誤魔化した。お母様が言いたくないならしょうがないのであたしもそれ以上さ聞かない。



ガチャ🚪
レイ
レイ
ただいま〜
壱馬ママ
壱馬ママ
あ、レイちゃん帰ってきた
レイちゃん。あたしと半分血が繋がっている義妹。
レイ
レイ
愛羅ちゃん来てるの!?
赤いランドセルを背負った可愛い女の子が走ってリビングに入ってきた。
壱馬がシスコンになるのも分かる。







例えるならまさに天使。
壱馬ママ
壱馬ママ
来てくれてるわよ〜あれ、なんで知ってるの?
レイ
レイ
お兄ちゃんから珍しくメールが来たの
壱馬ママ
壱馬ママ
へ〜
だから走って帰ってきてくれたのか。
てゆうか、壱馬って妹にメールするんだ。
レイ
レイ
愛羅が行くから相手してやれって
湯浅愛羅
湯浅愛羅
ははは……
レイちゃんに会えた嬉しさと、ちょっとした緊張に、ポカーンとしてるあたしにかけよってきた
レイ
レイ
はじめまして!レイです!
湯浅愛羅
湯浅愛羅
愛羅です、よろしくね
座って視線を合わせて言うと、ふわふわ〜と嬉しそうに笑った。
レイ
レイ
愛羅ちゃん会いたかったの〜やっぱり可愛い!
壱馬兄の気持ちわかる!
壱馬ママ
壱馬ママ
レイちゃん!
レイ
レイ
慌てて2人が顔を見合せた
湯浅愛羅
湯浅愛羅
どうしたの?
レイ
レイ
あはは、なんでもないよ〜
誤魔化すように笑ったレイちゃんは、たまらなく可愛かった。

(もはやメロメロだ)
あたしにめいっぱい近づいて座ったレイちゃんは満面の笑みで言う。
レイ
レイ
レイ、お姉ちゃんがいて嬉しい!
湯浅愛羅
湯浅愛羅
―――本当?
レイ
レイ
うん!初めて知った時凄く凄く嬉しくて泣いちゃった! うちはお兄ちゃんばかりだから
あたしのほうこそ、嬉しくて、たまらなかった。義妹がいただけで嬉しいのに、こんな嬉しいこと言ってもらえて。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
ありがとう―――。
あたしも嬉しいよって言うとさらに笑うレイちゃん。
本当に天使のよう。
レイちゃんとひとしきりお喋りし、お母様は7時頃晩御飯を食べさせてくれた。
意外に和風の肉じゃがとか焼き魚。
壱馬ママ
壱馬ママ
壱馬がね、和食しか食べなくて
そういうお母様は、よっぽど壱馬が可愛いんだと思う。
愛されて生きてんのになんでヤンキーなんだろう。
壱馬ママ
壱馬ママ
ユウは文句言いながらも結局お兄ちゃんっ子だから和食でいいんだと思う
どうやら弟までヤンキーなのは兄貴の真似っ子らしい。
そのまま弟、ユウくんの話になった。
レイ
レイ
ユウ兄も灰高入るのかな?
壱馬ママ
壱馬ママ
どうかしら。壱馬はちょっとうっとうしがりそうだけどね
レイ
レイ
壱馬兄は卒業だから一緒になる訳じゃないからいいんじゃない?
壱馬ママ
壱馬ママ
確かにそうね、でも心配しそうだわ
壱馬は兄貴みたいになりたいって思う弟を、ちょっとは思っても本気で鬱陶しいなんて思わない。お母様もレイちゃんもモチロン同じ気持ちみたいだ。











ガチャ🚪
レイ
レイ
あ、壱馬兄帰ってきた!
レイ
レイ
おかえりなさ〜い!
パタパタとレイちゃんは玄関に走って行く。
レイちゃんもお兄ちゃんっ子だ。
壱馬の手を引っ張るようにリビングに入ってきた。晩ご飯も食べ終え、ソファに座るあたしに視線を向けニッと笑った(多分)。

『な、大丈夫だったろ』って言われてるみたい。

たしかに、楽しい時間だった―――
レイ
レイ
壱馬兄今日早いね〜
川村壱馬
川村壱馬
今日集合じゃねぇし、下のやつらも帰らせた
レイ
レイ
ふぅん
川村壱馬
川村壱馬
仲良くしてたか?
レイ
レイ
うん!愛羅ちゃん可愛いね!
川村壱馬
川村壱馬
…お前の目は節穴か?
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あぁん!?
ムカつく! 何かま間違ってんだよって顔しやがって! こいつ超失礼!!
レイ
レイ
え〜? 可愛いよ! 絶対モテたと思う!
レイちゃんのフォローはあったけど…まぁ実際確かにそんなことは無い。決してモテたことはない。人生1度はモテ期が来るなら、とっとと来て欲しいです。
川村壱馬
川村壱馬
…………、たのかよ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
へ?
川村壱馬
川村壱馬
……モテたのかよ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
モテるわけないじゃんか!
川村壱馬
川村壱馬
ふぅん
興味無さそーー!!!! 自分で聞いといて!!!
真剣に聞くから正直に答えちゃったのに!
レイ
レイ
壱馬兄分かりやすいなぁ
川村壱馬
川村壱馬
黙れ!
レイ
レイ
ふふふ〜
なにやら兄妹仲良くじゃれあってる。
兄貴ヤンキーだけど仲良しなんだなぁと感心してみる。
川村壱馬
川村壱馬
帰るぞ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
え!
川村壱馬
川村壱馬
送る
壱馬は勢いよく立ち上がり、机にあった(チャリ? バイク?)の鍵を持った。
レイ
レイ
え〜愛羅ちゃん帰っちゃうの?
壱馬ママ
壱馬ママ
あら泊まってけばいいのに
そう言ってくれるレイちゃんとお母様にちょっと後ろ髪を引かれながら立ち上がった
川村壱馬
川村壱馬
送ってくる
レイ
レイ
なんでぇ!?泊まってってもらおうよ
川村壱馬
川村壱馬
言ったろ、遊びに来るだけだって
レイ
レイ
なんでよ、いいじゃん! 泊まってけば
川村壱馬
川村壱馬
ダメなんだよ、わがまま言うなよ
何だか兄妹喧嘩っぽくなってきてる……。
壱馬はいたってクールだけどレイちゃんはムキになってきてる。
やっとレイちゃんが小6なんだと思い出した。
レイ
レイ
それは壱馬兄の都合じゃん!
レイ
レイ
壱馬兄こそわがままだよ!
川村壱馬
川村壱馬
俺の都合じゃねぇ
レイ
レイ
壱馬兄の都合じゃんか!
川村壱馬
川村壱馬
あ?
壱馬の都合?
レイちゃんから繰り返し出てくる単語にあたしは首を傾げた。
レイ
レイ
壱馬兄が愛羅ちゃんをっ―――
ぷにゅッ
レイちゃんが何かを言いかけた時、今までクールだった壱馬が慌ててレイちゃんを捕まえて片手で両頬を掴んだ。
タコみたいな口にされたレイちゃんは、モゴモゴして話せない。
レイ
レイ
うぅ〜
川村壱馬
川村壱馬
余計なこと言うなバカ
レイ
レイ
ひゃっへ〜
ジタバタするものの、レイちゃんは離して貰えず。
観念して大人しくなると壱馬はようやく手を離した。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
また来るから
あたしがそう言うとシュンとしながらも頷いてくれるレイちゃんはやっぱり死ぬほど可愛かった。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
お邪魔しました
壱馬ママ
壱馬ママ
また来てね
レイ
レイ
絶対すぐ来てね!
湯浅愛羅
湯浅愛羅
はい、ありがとうございます
でかい玄関であいさつをしている間にとっとと壱馬は外に出てた。
少しするとバイクのうるさいエンジン音が聞こえてきた。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
お弁当も夕飯も、めちゃめちゃ美味しかったです!ありがとうございました!!
壱馬ママ
壱馬ママ
いーえ、良かったわ
にっこりと笑うお母様にぺこりと頭を下げ、レイちゃんに手を振って、物凄くでかい扉開けた門まで歩いていくと、既にバイクに股がった壱馬がいた。
川村壱馬
川村壱馬
早く乗れ
ものすごく近いのに……。いっそ徒歩でいいのに……。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
きいゃあぁ〜〜
川村壱馬
川村壱馬
うるせぇ〜! 黙って乗ってろ!
壱馬のバイクは慎のバイクより一回りも二回りもでかくて、とても怖った。
ギューって壱馬にしがみついてても振り落とされそう。。
そして、
川村壱馬
川村壱馬
着いた
案の定、死ぬほど近かった。歩いても10分かからないんじゃないだろうか。
何でわざわざこんなでかいバイク。。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
死ぬかと思った
川村壱馬
川村壱馬
じゃあな
湯浅愛羅
湯浅愛羅
ぅん…ありがと
よろりとバイクから降りて壱馬に言う。
頷く壱馬を見ると部屋に行けって顔をしてるのであたしはマンションに入って行く。

階段を上がり廊下に出て下を見たらまだバイク股がっている壱馬がいた。
川村壱馬
川村壱馬
8時までだからな
湯浅愛羅
湯浅愛羅
わかってるー!
校舎内には8時までに入る。了解です。
あたしは見送ってくれるのが嬉しくて、素直に頷いた。あたしがドア開けて振り返ってもそこに壱馬がいてくれた。手を振ったあたしに手を振り返してくれたりなんかして。
部屋に入ったらバイク音が去っていった。

色んなことがあったこの日。
あたしはおばあちゃんが亡くなってから初めて、泣かずに眠れた。









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