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第4話

3️⃣
52
2024/07/28 22:49


ミヤアツは私のブログを見たらしい。


-なんか照れちゃう////////////////ネ



「いつもアランくんの応援にきとる女おるやん……???そいつのブログ見つけたから興味本位で会員登録したってん、」

「ああ、あなたの名前な」

「あ?そんな仲良かったか?」



まあええとミヤアツ。


-なお、この会話録は後日私が治に聞いたものである。一緒にその一部始終を見ていこうではないか。




「ほんでこれや」


じゃらじゃらと音を立て、ダイニングテーブルに並べられたアクスタ、アクキー、1/12フィギュア、イメージチャーム、聖典、etc..


-もっと丁重に扱え



「会員登録は無料やねん。せやけど毎月の強制クラウドファンディング…サブスク………という名の悪徳商売や、あれは」




つーか著作権?どうなっとんねんと金髪。


-肖像権だよ、オベンキョしようね😊




ちなみに私は、推しで儲けようなど微塵も考えていない。アクスタアクキーは私が描いたイラストだし、サブスクは毎月更新の聖典のためのものだ。

私は私が嫌いなオタクには絶対ならないと、じっちゃんに誓ったもんなんでな。



「見事にアホが餌にかかっとる、いくらなん?」

「最低月額1000円」

「まあまあするな」



興味なさげに夜食のおにぎりを取りに行く治。


-なんで!?!?破格もええとこの聖典なんぞ特大付録やろ?!?!?!




「おん、あ、これサムの貯金箱の破片」

「こんのクソボケカスブタァッ!!!!!!」



-膝を相手に向け、45°。キッチンからリビングへと、勢いがありますね。



「悪いと思てる。アクスタやるわ、枕元に置くことが推奨されとった」

「ド鬼畜生やな。有罪や」


-お、膝サポーターを下ろすアランくんのアクスタだ。懐かしい。感慨深い。


「ちなみに初回は通常2倍増の2000円!」

「あかん、俺お前もあいつも呪いたい。いや呪う」

「ただし特典も2倍やし、いまなら特別!今月号は聖典が無料!」

「こんなコスパ悪できんのも一種の才能やな……」



ずずとお茶を一口啜る治。



「本題入んで、こんな宗教、例のブログ読んだら辞めたろと思ってな、まぁ読み進めたんやけども」

「尾白アランの会ってとこか。世も末やな」



-どつくぞ治


!!!以下読み飛ばし可能!!!


__________


【密着!推しに認知されるには?
とあるオタクの行動記録!】




-前略


7月某日、今日も私は出待ちをする。
オタクたるもの推しに認知されたいなぞ言語道断。
推しと同じ空気を吸うを至福とするか、烏滸がましくも承認欲求を満たそうとするか。
そこが運命の分かれ道である。

しかし、人間とは愚かな生き物であって、悲しいかな己の幸をひたすらに追い求めてしまうのだ。

さて、前置きはこの辺にしておいて。
私は推しに認知されたい。害悪オタク、リアコは抹殺の対象であり、望むべき形ではないのは重々承知の上である。
別にリアコとかじゃなく、オタクとして認知されたいのだ。
私を意識して欲しい!私だけにファンサくれ!そんなことは微塵も考えていない。
ただただ推しの良いように使われたいのだ。
疲れた時は私を足置きにしてほしいし、もっともその大役(ご褒美)に見合うように当然全身全霊でサポートする。
推しを助けるために、必ず私が助けるために、私という救出の道筋を一つでも多く知っていて欲しいのだ。

本題に入ろう。どうすれば認知してもらえるか。
自分を知ってもらうにはまず相手を知る……どこぞの心理本でもお馴染みの論だ。
しかし、このことに気づいたのは数年前。恥ずかしい限りだ。

まず私は、親しい友人を通して幼少期の推しの情報を手に入れた。これは私の毎晩の肴である。
次に追跡。放課後彼がどんな行動をしているか調査した。写真も忘れずに、また家内での行動も書き記すと尚良い。細かな癖、個人情報、趣味嗜好はもちろんのこと。
しかし、1番大切なのは推しを不快にさせないことだ。
手に入れた情報は腐ることはまずない。推しの全てを把握し、たち振る舞う。そうすれば推しからの印象爆上がりである。

続いて大切なのは同担への対処。まず、同じ推しを信仰する同士こそ同担であり、尊ぶべき存在であることはわかっていてほしい。この会も同担へ向けたものでもある。
しかしこれも中には害悪もいるわけで、そう言った対象から推しを守るための手段の認知である。
まず、こちら側で対処できる場合は絶対にしておこう。ファンの不始末はファンの中で片付けるべきである。推しの手を煩わせたら、即刻自害の心算である。
常日頃から推し、また同担に自分のことを認知させる。その私が正しい行いをすれば、自然に界隈の秩序は保たれるはず。俗な言い方をすれば、その界隈のドンになるのである。

初めにやるべきことは応援だ。うちわとか、ペンラとか、とりあえず物資で負けるな。
借金してもいい、餓死までいけ。喉を潰す勢いで応援しろ。自分たちの努力次第でなんとかなる応援だけは、なんとしても勝ち抜くのだ。イメージとしては1000人の応援に1人のゴリ押しで勝つ感じ。

実際、歓声というのは凄まじいもので、それを大きくするだけで相対評価だろうか、推しと近づく機会も増えたし、認知もされた。そう、結局今まで同担がどうだの色々言ってきたが、結局はこの応援を成功させるための予備準備に過ぎないのだ。それほどまでに応援は大切なのだとぜひ心に留めておいてほしい。




-以下略
__________________

_________
___…………






あれから何分経っただろうか。

ようやく読み終えた双子は、机に突っ伏した。



「………俺はこんな………ッッ!!!こんな!!!」

「(悲哀に満ちた眼)」

「………聖典の話聞くか?」

「………………ごちそうさんでした…………」


-ちなみに聖典は、ブログには載せられない、アランくんのマル秘(R指定もあるよ)、アランくんへの祈り、アランくん一問一答などが贅沢に描かれている。私が描いた尾白アラン夢小説もある(照)。



しばらく物珍しそうに、なおかつ苦しそうに。

2人はAlan set(ハッピーセット)を漁っていた。







「……ん?ちょお待てやツム」

「あ?」

「これ見てみ」



治が指さしたのは、私とっておきの尾白アランブロマイド(本人承諾済み)。

…の、裏。


【 おめでとうございます
  このブログに入会すると 自動的に
  尾白アランを崇め讃える会の 参加が
  保証されます 。            】



「なんやねん、尾白アランを崇め讃える会」




治はブロマイドを凝視している。


「…………ツム、頑張ってきいや」

「はぁ?いくわけないやろこんなも…………」


【 次回の開催の詳細は 下記をご覧ください
  また 不参加となりますと
  キャンセル料として 自動的に
  6700円が差し引かれますので
 ご注意下さい             】



学生の小遣いで6700円。

しかもそのほとんどをバレーに注いでいるため、バイトなんてもちろんしない。

痛い。痛すぎる出費だ。



「!!!!………っ退会…!!!解約は、っどうやって」

「上手いことやっとるな、方に触れるか触れんかギリギリのとこで。」

「ほんまにあかん、あかんあかんあかん!!」



無様に喚き散らかす金髪。

21時過ぎやで……??



-ごめんなぁ、尾白アラングッズは自費でやっとるけど、アランくんにはもっと貢ぎたいんや。

バイトにバイトを重ね、それでもまだ足りない。全世界共通で需要のある尾白アランの会を思いついた時は我ながら震えた。


大事な資金源を逃すわけにはいかんのや。



「ああああ、っクッソォ………」

「あーあ、まんまとやられたなぁ、あなたの名前に」


治はすっかり興味をなくして、ソファーに腰掛け、アイスキャンディーをかじりながら、片割れの惨めな姿を眺めている。


「…………〜〜〜〜!!!」


-ここでミヤアツが動いた。



華麗に、といっても両手が塞がっている治から、携帯電話を取り上げ、慣れた手つきで操作する。

まあ2回目ともなればスムーズにできるだろう。


ブログまで飛べば、あとはワンクリックだ。

事前に治はブログを見ていた。
転じて、吉となるか凶となるかは………




「悪いな、道連れや。クソサム」

「ッは?!、っっふざけんなぶち◯ろ゛すぞ!!!!!!!!!」
















【 登録完了 おめでとう 貴方に愛を 】



花束に囲まれたアランくんの画像。

登録完了の画面だ。




______と、いうわけで、尾白アランの新たな信者が2名、誕生したのであった。



____________






「あなたの名字はさぁ、尾白先輩に対して恋愛感情はないわけ?」



出会いざまにそう聞いてきた角名の頬を肘打ちしたのは、こないだの試合から2日後のことだった。

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