第11話

9.赤い薬と騒動の話 (2)
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2024/10/22 05:26 更新
突如地面から現れた土の壁によって、振り上げられた剣は女性に届くことはなかった。

剣は土の壁に刺さるどころか、傷付くことなく剣を弾き飛ばした。
女性
これは…一体…
騎士達と女性は、突然起きたことに愕然がくぜんとしているしか無かった。


そこで、1人の少女の声が響く。
アルテミシア
アルテミシア
驚かれているところ、失礼
その声で、その場の者全員が目を覚ます。

そして、声の主の方に目を向ける。
お、お前は…
アルテミシア
アルテミシア
あ、私のことはいいんで、状況を教えてくれませんか?
アルテミシア
アルテミシア
まず、何の話をしていたのですか?
貴様には関係の無いことだ!
それよりとつぜ…
アルテミシア
アルテミシア
どうでも良いので、教えて下さい!
どうでもよくなかろう!
貴様は…
 
我々は皇帝陛下の命により、この月蓬の庭に住む“マカティナ”様にこの薬を受け渡す為参上した
 
お前…!
これでは話が進まないと判断した隊員の1人が、話を始めてくれた。
それで、薬を渡そうとしたところ中々受け取ってもらえず……
隊員が隊長へと目を向ける。


ーー我慢の限界でついには剣を抜いた…と。
アルテミシア
アルテミシア
……なるほど
大体状況は理解した。


アルテミシアは落ちていたその薬のびんを拾う。

小さな瓶の中には赤黒い粘着物のようにも見えなくはない液体が入っている。


その瓶を少し眺めていた彼女は、まるでそりゃそうだろと言いたげな呆れた顔でこう言った。
アルテミシア
アルテミシア
流石にこりゃダメでしょ
その瞬間、ここ一体の空気が凍る。


アルテミシアは薬を見てそう言ったので、薬に対しての言葉だろう。
それがまずかった。


隊長の彼は帝国の最高峰の技術で出来上がった薬的な事を言っていた。

それが侮辱ぶじょくされたのだ。

その薬が侮辱される事は、国を侮辱することと等しい。


彼らは物凄く怒りが湧き上がる事だろう。

案の定、彼らは怒りが爆発寸前でいた。
貴様!この薬を侮辱するのか!
怒りのあまり、隊長のように剣を抜こうとする隊員もいたが、アルテミシアは平然といた。
アルテミシア
アルテミシア
そりゃあそうでしょう?
アルテミシアは持っていた瓶に指を差す。
アルテミシア
アルテミシア
ここ、よく見れば細かい傷が沢山見れます。
ここは欠けています
それがどうした
アルテミシア
アルテミシア
え? これ、渡す物ですよね。
しかもれっきとした商品として。
お金は請求しなくとも、商品は商品です
アルテミシア
アルテミシア
傷付いた物を普通売りますか?
そもそも水晶金貨3枚もするものに傷が付いているとなると詐欺だとも思いかねませんよ
確かに、と理解する者が一応いたようだ。

しかし、それでも侮辱されることに納得がいっていないようであった。
アルテミシア
アルテミシア
それに、どうやって作ったんですか?
魔術機関がお作りになられたんだ!
魔術に決まっているだろう!
――やっぱり魔法か……え?魔術…?ま、まあ魔法と変わらないと思う。会話からするに予想はしてたけど、まさかのまさかだったか…。


はぁ、とため息を吐くアルテミシア。
アルテミシア
アルテミシア
それだよ。1番ダメな事はそれだ
はぁ?
アルテミシア
アルテミシア
いい?魔力を回復薬を作る場合、魔法を使って作るのは別に悪いことではないの。
けど病気を治す薬となったら違う。
病を治せる薬は薬草からでしか作れない。
アルテミシア
アルテミシア
それを魔法で作った事なら、その薬は返って毒にしかならないんだよ。
だからぜーったい!魔法でそういう薬は作っちゃダメ!
分かった?
実際デスゲーム化する前に、魔法で作った状態異常の回復薬を服用した時、毒状態になってデスした事があったのだ。


実は同じように魔法で作った方が早いと状況異常系の回復薬を作って飲んだプレイヤーは多い。

そしてデスした者も少なくないので、よく“初心者殺しの薬”と言われていた。



それを聞いた騎士達は先程までの威勢いせいは無くなり、このことを報告すべきか相談していた。
アルテミシア
アルテミシア
にしても気付いてよかった…。
一歩間違えれば危なかったね。
それで、大丈夫?
アルテミシアは後ろで立っていた女性に声をかける。
女性
は、はい。ありがとうございます。
……?どうかしましたか?
アルテミシア
アルテミシア
あっえっと…
遠目からでしか見ていなかったアルテミシアは、改めて女性の容姿を見る。

色白な肌、水色の混じった金髪に澄んだ湖のような瞳。
そして長い耳を持っていた。


――綺麗なエルフのお姉さんだ〜!!初めて見た!……まて、エルフって実装されてたっけ。まあいっか。というか、顔色悪いな…。


そう思いながら、物珍しそうに彼女の顔を見つめるアルテミシア。

気恥ずかしそうに顔を赤めるエルフの女性は見るのをやめるように言う。
アルテミシア
アルテミシア
あっごめん、エルフって初めて見るから__
そ、そんな馬鹿げたこと信じられるかっ!大体お前は何者なんだ!
どうやらまだ1人納得がいかない人がいたようだ。

その納得がいってない人、隊長はアルテミシアを差す。


言われてみれば、アルテミシアは自己紹介をしていないのに気付く。
アルテミシア
アルテミシア
そうでした。
えー、私はアルテ…
その耳…!フハハッ!貴様、『雑種』か!
アルテミシア
アルテミシア
はぁ
『雑種』 聞き覚えのない言葉に呆気に取られる。
女性
なんでこんな所に獣人族が…いや、違う……
後ろではエルフの女性が何か呟いているような気がしたが、アルテミシアはそれよりも目の前で自分が勝ったかのような高笑いをする隊長の男に目が入っていた。


隊長の男はアルテミシアを見下ろす。
そうなれば話は違う。
雑種如きが我々を罵倒ばとうするなど断じてならん!
アルテミシア
アルテミシア
罵倒なんて一切してませんよ。
私はただこの薬を渡すのはよろしくないことを告げただけです!
アルテミシア
アルテミシア
というかさっきから雑種雑種って、一体何ですか!
ええいっ!黙れ!
無能の雑種如きが!
そう男は言い放ち、アルテミシアをり落とす。

それをまともに食らったアルテミシアは地面に打ち付けられる。
ふん、奴隷以下の貴様らは地面に這いつくばってればいいのだ
男は倒れたアルテミシアに近寄り、その足で腹を踏もうとする。

しかし、それはエルフの女性によって止められた。
女性
あなた、気付いてないの?
…一体何の事だ?
女性
この人……いいえ、この者は、あなた達が恐る“魔族”だということを
ククッ、魔族ぅ?
そんなもの御伽話おとぎばなしの中の話だ!
こんな雑種の小娘が魔族な訳…
先程まで好き放題に罵倒していた男は、何か異様な気配を感じる。

例えるならば、赤子と騎士のような圧倒的な力の差を感じるような。


額に冷や汗が流れる男は、アルテミシアを見る。
う、嘘だろ……
恐怖で威厳も何も無くなっていた部下の騎士は悲鳴のような声を上げる。
魔族だぁあ!!
て、撤収だ!撤収ー!!
毎度お馴染みにさえ感じてくるこの展開に、もう驚かなくなった。
この事はあのお方にも伝える!
覚悟しておくがいい!
と、威勢はいいが、逃げる格好はなんとも情けない隊長であった。

1分もしないうちに情け無い騎士達の姿と悲鳴は森から消えていた。


アルテミシアは倒れた体を起こし、背伸びする。
アルテミシア
アルテミシア
怒涛の時間だったな…。
にしても魔族って、酷いなぁ
呟いていると、目の前に手が差し出される。


その手はエルフの女性のものだった。
女性
さっきはありがとう。
マカティナ
マカティナ
私はマカティナ。
見ての通りエルフよ
アルテミシアはエルフ改めマカティナの手を取り、立ち上がる。
アルテミシア
アルテミシア
えっと、私はアルテミシア。あと、魔族じゃないよ!
マカティナ
マカティナ
あっ、さっき魔族って言ってごめんなさいね。
あの人たちを手っ取り早く帰らせる方法がこれしかなくて…
アルテミシア
アルテミシア
そうだったんだ。
もう気にしてないから大丈夫だよ
そう伝えるとマカティナは安堵の笑顔を見せ、手招きする。
マカティナ
マカティナ
さっきのこともあって疲れたでしょ?
お茶を出すことしかできないけど、中に入ってよ
アルテミシア
アルテミシア
じゃあお言葉に甘えて。
それに私も色々聞きたい事があるし
マカティナに連れられ、アルテミシアは大樹の下にある家の中に入っていった。

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