突如地面から現れた土の壁によって、振り上げられた剣は女性に届くことはなかった。
剣は土の壁に刺さるどころか、傷付くことなく剣を弾き飛ばした。
騎士達と女性は、突然起きたことに愕然としているしか無かった。
そこで、1人の少女の声が響く。
その声で、その場の者全員が目を覚ます。
そして、声の主の方に目を向ける。
これでは話が進まないと判断した隊員の1人が、話を始めてくれた。
隊員が隊長へと目を向ける。
ーー我慢の限界で遂には剣を抜いた…と。
大体状況は理解した。
アルテミシアは落ちていたその薬の瓶を拾う。
小さな瓶の中には赤黒い粘着物のようにも見えなくはない液体が入っている。
その瓶を少し眺めていた彼女は、まるでそりゃそうだろと言いたげな呆れた顔でこう言った。
その瞬間、ここ一体の空気が凍る。
アルテミシアは薬を見てそう言ったので、薬に対しての言葉だろう。
それがまずかった。
隊長の彼は帝国の最高峰の技術で出来上がった薬的な事を言っていた。
それが侮辱されたのだ。
その薬が侮辱される事は、国を侮辱することと等しい。
彼らは物凄く怒りが湧き上がる事だろう。
案の定、彼らは怒りが爆発寸前でいた。
怒りのあまり、隊長のように剣を抜こうとする隊員もいたが、アルテミシアは平然といた。
アルテミシアは持っていた瓶に指を差す。
確かに、と理解する者が一応いたようだ。
しかし、それでも侮辱されることに納得がいっていないようであった。
――やっぱり魔法か……え?魔術…?ま、まあ魔法と変わらないと思う。会話からするに予想はしてたけど、まさかのまさかだったか…。
はぁ、とため息を吐くアルテミシア。
実際デスゲーム化する前に、魔法で作った状態異常の回復薬を服用した時、毒状態になってデスした事があったのだ。
実は同じように魔法で作った方が早いと状況異常系の回復薬を作って飲んだプレイヤーは多い。
そしてデスした者も少なくないので、よく“初心者殺しの薬”と言われていた。
それを聞いた騎士達は先程までの威勢は無くなり、このことを報告すべきか相談していた。
アルテミシアは後ろで立っていた女性に声をかける。
遠目からでしか見ていなかったアルテミシアは、改めて女性の容姿を見る。
色白な肌、水色の混じった金髪に澄んだ湖のような瞳。
そして長い耳を持っていた。
――綺麗なエルフのお姉さんだ〜!!初めて見た!……まて、エルフって実装されてたっけ。まあいっか。というか、顔色悪いな…。
そう思いながら、物珍しそうに彼女の顔を見つめるアルテミシア。
気恥ずかしそうに顔を赤めるエルフの女性は見るのをやめるように言う。
どうやらまだ1人納得がいかない人がいたようだ。
その納得がいってない人、隊長はアルテミシアを差す。
言われてみれば、アルテミシアは自己紹介をしていないのに気付く。
『雑種』 聞き覚えのない言葉に呆気に取られる。
後ろではエルフの女性が何か呟いているような気がしたが、アルテミシアはそれよりも目の前で自分が勝ったかのような高笑いをする隊長の男に目が入っていた。
隊長の男はアルテミシアを見下ろす。
そう男は言い放ち、アルテミシアを蹴り落とす。
それをまともに食らったアルテミシアは地面に打ち付けられる。
男は倒れたアルテミシアに近寄り、その足で腹を踏もうとする。
しかし、それはエルフの女性によって止められた。
先程まで好き放題に罵倒していた男は、何か異様な気配を感じる。
例えるならば、赤子と騎士のような圧倒的な力の差を感じるような。
額に冷や汗が流れる男は、アルテミシアを見る。
恐怖で威厳も何も無くなっていた部下の騎士は悲鳴のような声を上げる。
毎度お馴染みにさえ感じてくるこの展開に、もう驚かなくなった。
と、威勢はいいが、逃げる格好はなんとも情けない隊長であった。
1分もしないうちに情け無い騎士達の姿と悲鳴は森から消えていた。
アルテミシアは倒れた体を起こし、背伸びする。
呟いていると、目の前に手が差し出される。
その手はエルフの女性のものだった。
アルテミシアはエルフ改めマカティナの手を取り、立ち上がる。
そう伝えるとマカティナは安堵の笑顔を見せ、手招きする。
マカティナに連れられ、アルテミシアは大樹の下にある家の中に入っていった。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。