第11話

惚れないように
8
2024/10/29 04:00 更新
男が一人、白いベットの上に座って、足を子供みたいにぶらつかせたり、床をつま先でトントンと叩いたりする。
窓は開いているが、あまり風が吹いていないようで、カーテンは少しも揺れない。
鳥の囀(さえず)りが聞こえる。
月城 幸
月城 幸
つまりセンセーは、僕が警察官だった頃に会った子……って事?
西条 小鳥
西条 小鳥
……嗚呼。そうなるな……
俺、西条小鳥は、この生意気な、前職警察官とは思えない男に、馬鹿でも分かるように説明していた。
前会った時はあんなしっかりした人に見えたというのに。どうしたこの変貌ぶりは。何がこの人を変えたのだ?
月城 幸
月城 幸
えー、覚えてたってコト?
僕うれしい!
月城は口角だけを上げた。
目は虚ろに此方を見ている。
まあ、あれだけ強い衝撃を与えられたら覚えていてもしょうがないがな。
実にあれは驚いた。夢にまで出てきたぞ。…
月城 幸
月城 幸
それってさあ………
僕のこと、好きってことでしょ?
月城がにやりと笑う。不気味な程に口角をあげて。
そして俺が反応する前に視界が反転した。
暫く頭が回らず、数秒経った。
それで漸く状況を理解したと思った途端、胸に違和感があるのを感じた。
月城 幸
月城 幸
正直、センセーめっちゃタイプ♡
月城が俺をベットに倒して、服の中に冷たい手を突っ込んで弄っていた。
ついでに俺の手首が、腕を上げさせられ、月城に片手で拘束までされていた。
一所懸命、振り払おうとするが、いかんせん、前職警察官というのは伊達ではないようで、ガッチリと拘束されていた。
月城 幸
月城 幸
ふふっ、暴れないでね……?看護師さん呼んじゃうよ?
助けて、この人に暴力を振られたーーって。
西条 小鳥
西条 小鳥
ふん、やってみやがれ、そもそも暴力を振るったのなら、傷ができる筈だ。お前にそんな傷は無い。つまり証拠は一個も無い。
つい乱暴な口調で喋ってしまったが、それだけ余裕が無いという事なのだろう。
月城はニヤリとまたあの不気味な笑みを浮かべて、その顔のまま、口を開いた。
月城 幸
月城 幸
傷ならあるよ。
めっちゃ大きいヤツ。
西条 小鳥
西条 小鳥
…………は?
ちょっと診せてみろ。
月城 幸
月城 幸
え?
西条 小鳥
西条 小鳥
…は?
暫くシーン……と、この空間が凍った様に時間が止まった気がした。
月城の掴む手が弱まった隙を見て、払い除けた。そして、ベットから降りた。
月城は気づいたようで、
やっちゃったー…
と小声で言い、そそくさと病室を出ようとした所に、すかさず俺が月城の肩を力一杯掴む。
西条 小鳥
西条 小鳥
診せろと言っている。
月城 幸
月城 幸
……は、はあい……。







西条 小鳥
西条 小鳥
……で、どこにどの類の傷がある。
月城をベットに座らせて、俺は近くに置いてあったパイプ椅子に座った。月城はなんだかソワソワとしていて、落ち着きが無い。
月城 幸
月城 幸
えっと、お、お腹……
……なんだか焦ったい。こんなんでは、こっちまでソワソワしてくるではないか。
俺は強引にも、月城の服を勢いよく捲った。
そこには、
鳩尾(みぞおち)から脇腹、腸あたりまでに掛けてのアザがあった。
殴られたのだろう。
月城は慌てて捲られた服を下に下げた。
月城 幸
月城 幸
えっと、これはー……ですね?
その、
西条 小鳥
西条 小鳥
なんなんだ、これは。
月城 幸
月城 幸
痴情のもつれ、というか、まあ、そうですな……人の恋人に手ぇだしてしまって、…その恋人の恋人がヤクザで……こんなコトに…
聞けば聞くほど呆れた。
まさかそんな奴だったとは。本当の駄目男だな、此奴は。
俺はおもわずため息をついてしまった。
……まあ良いだろう。相手は月城だ。
西条 小鳥
西条 小鳥
呆れた。
もうどうでもいいから、さっさと体温やら測らせろ。
月城 幸
月城 幸
わーい、センセーやさしーい。
棒読みじゃないか。
そんなこんなで襲われずに済んだのだが、そんな午後七時。月城の病室にだれか若い男が入っていく所を目撃した。来ている服から、患者と見える。
偶然通りかかった先輩、山岸麻衣子さんにそれを話したら、
山岸 麻衣子
山岸 麻衣子
ああ、その患者さんは和泉さんだね。
西条 小鳥
西条 小鳥
何か知っているんですか。
先輩はびっくりした顔をして、
山岸 麻衣子
山岸 麻衣子
知ってるも何も。この病棟じゃ有名だよ。知らないの?
西条 小鳥
西条 小鳥
恥ずかしながら……
山岸 麻衣子
山岸 麻衣子
いいよ。教えてあげる。
この病棟に入院している、月城さん。あの人は、曜日ごとに夜にヤる人を決めているの。今日は水曜だから和泉さんって具合に。
そういえば、しってる?月城さんの看護師になっちゃった人は、必ずクビになるってうわさ。
……知らない?ホントに貴方って世間に興味無いんだね…
でね、クビになる理由っていうのが、必ず月城さんの事を好きになってしまうから、なんだって。男女関係なく。でも、月城さん自身は男好きだけどね。それで、病院を抜け出して、二人で何処か遠いところに行こうとする看護師が多々いるから、月城さんの看護師になる人は、極力新人さんではなく、年配の方が良い、とされているけど、今は人手不足でねえ。貴方しかいなかったんだよ。
だからさ、月城さんに惚れないように気をつけてね。
西条 小鳥
西条 小鳥
……わかりました。
山岸 麻衣子
山岸 麻衣子
それじゃ、アタシ帰るから、引き続き仕事頑張ってねー。
そういって、荷物をもって先輩はその場を去った。
まさか、月城がそんなヤバい男だとは思わなくて、びっくりしてしまった。
もしかして俺まで、他の月城の看護師と同じ末路を辿るのか……
と考えるも、そこで遮断した。そんな事、考えたくもなかったからだ。
西条 小鳥
西条 小鳥
とりあえず、仕事するかあ。
ふと時間を見ると、八時を回っていた。
八時は、月城の血圧やらを測りに行かなければならない時間帯だ。急がなければ。
西条 小鳥
西条 小鳥
入るぞ。
その時は、長い時間勤務していたので、疲れていた。故に、ノックを忘れてしまった。
微かに男の声がしていたのは分かっていたが、それが月城以外の声だった事は、すっかり頭から抜け落ちていたのであった。
俺の目の前に広がった光景は……

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