男が一人、白いベットの上に座って、足を子供みたいにぶらつかせたり、床をつま先でトントンと叩いたりする。
窓は開いているが、あまり風が吹いていないようで、カーテンは少しも揺れない。
鳥の囀りが聞こえる。
俺、西条小鳥は、この生意気な、前職警察官とは思えない男に、馬鹿でも分かるように説明していた。
前会った時はあんなしっかりした人に見えたというのに。どうしたこの変貌ぶりは。何がこの人を変えたのだ?
月城は口角だけを上げた。
目は虚ろに此方を見ている。
まあ、あれだけ強い衝撃を与えられたら覚えていてもしょうがないがな。
実にあれは驚いた。夢にまで出てきたぞ。…
僕のこと、好きってことでしょ?
月城がにやりと笑う。不気味な程に口角をあげて。
そして俺が反応する前に視界が反転した。
暫く頭が回らず、数秒経った。
それで漸く状況を理解したと思った途端、胸に違和感があるのを感じた。
月城が俺をベットに倒して、服の中に冷たい手を突っ込んで弄っていた。
ついでに俺の手首が、腕を上げさせられ、月城に片手で拘束までされていた。
一所懸命、振り払おうとするが、いかんせん、前職警察官というのは伊達ではないようで、ガッチリと拘束されていた。
つい乱暴な口調で喋ってしまったが、それだけ余裕が無いという事なのだろう。
月城はニヤリとまたあの不気味な笑みを浮かべて、その顔のまま、口を開いた。
暫くシーン……と、この空間が凍った様に時間が止まった気がした。
月城の掴む手が弱まった隙を見て、払い除けた。そして、ベットから降りた。
月城は気づいたようで、
やっちゃったー…
と小声で言い、そそくさと病室を出ようとした所に、すかさず俺が月城の肩を力一杯掴む。
月城をベットに座らせて、俺は近くに置いてあったパイプ椅子に座った。月城はなんだかソワソワとしていて、落ち着きが無い。
……なんだか焦ったい。こんなんでは、こっちまでソワソワしてくるではないか。
俺は強引にも、月城の服を勢いよく捲った。
そこには、
鳩尾から脇腹、腸あたりまでに掛けてのアザがあった。
殴られたのだろう。
月城は慌てて捲られた服を下に下げた。
聞けば聞くほど呆れた。
まさかそんな奴だったとは。本当の駄目男だな、此奴は。
俺はおもわずため息をついてしまった。
……まあ良いだろう。相手は月城だ。
棒読みじゃないか。
そんなこんなで襲われずに済んだのだが、そんな午後七時。月城の病室にだれか若い男が入っていく所を目撃した。来ている服から、患者と見える。
偶然通りかかった先輩、山岸麻衣子さんにそれを話したら、
先輩はびっくりした顔をして、
この病棟に入院している、月城さん。あの人は、曜日ごとに夜にヤる人を決めているの。今日は水曜だから和泉さんって具合に。
そういえば、しってる?月城さんの看護師になっちゃった人は、必ずクビになるってうわさ。
……知らない?ホントに貴方って世間に興味無いんだね…
でね、クビになる理由っていうのが、必ず月城さんの事を好きになってしまうから、なんだって。男女関係なく。でも、月城さん自身は男好きだけどね。それで、病院を抜け出して、二人で何処か遠いところに行こうとする看護師が多々いるから、月城さんの看護師になる人は、極力新人さんではなく、年配の方が良い、とされているけど、今は人手不足でねえ。貴方しかいなかったんだよ。
だからさ、月城さんに惚れないように気をつけてね。
そういって、荷物をもって先輩はその場を去った。
まさか、月城がそんなヤバい男だとは思わなくて、びっくりしてしまった。
もしかして俺まで、他の月城の看護師と同じ末路を辿るのか……
と考えるも、そこで遮断した。そんな事、考えたくもなかったからだ。
ふと時間を見ると、八時を回っていた。
八時は、月城の血圧やらを測りに行かなければならない時間帯だ。急がなければ。
その時は、長い時間勤務していたので、疲れていた。故に、ノックを忘れてしまった。
微かに男の声がしていたのは分かっていたが、それが月城以外の声だった事は、すっかり頭から抜け落ちていたのであった。
俺の目の前に広がった光景は……















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。