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第34話

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2025/12/29 05:22 更新
川尻蓮side


今日は忙しかったな……。
あくびをしながら医局でパソコンに向かってたところ、いつの間にか居眠りしてた。
與那城奨
蓮、疲れてんじゃん
川尻蓮
……ん、?
奨くんに肩を叩かれて目を覚ました。
お医者さんなのに、仕事中寝ちゃダメじゃん……。目を擦りながら顔を上げて、またパソコンと向き直った。

えっと、どこまで書いたんだっけ……。

夜ご飯前に翔也のとこも行ってあげなきゃ。
これは10分以内に終わらせよ。
與那城奨
ちょっとさ、休憩しようよ
川尻蓮
いや、俺これ終わらせないと……
與那城奨
どうせ集中できないから、みんなと遊びに行こうよ
川尻蓮
……遊びに?
奨くんに連れられて来たのはキッズスペース。
院内学級の帰りにここで遊んでる子が多い。

今日もたくさんの子どもたちで賑わっていた。

何度も苦しんできた子たちの笑顔。
あまりにも眩しかった。
豆原一成
せんせぇ〜!!
小さい足をぱたぱた動かして来てくれた一成くん。
渡された仮面ライダーのおもちゃを受け取った。

可愛いなぁ……。
苦しんでるとこしか見れないことも多いけどさ、一成くんだって、他の子と何にも変わらない子どもなんだ。
白岩瑠姫
こら一成くん、走ったら危ないでしょ
白岩瑠姫
……お、来たんすか笑
川尻蓮
お疲れ笑
瑠姫が小さい子たちに混ざって遊んでた。
エプロンつけて、保育士さん?笑
豆原一成
仮面ライダーごっこしてるのっ!
與那城奨
そうなんだ笑ちゃーんと仲良くできてる?
豆原一成
うん!楽しいよ!
川尻蓮
痛くなったり苦しくなったら瑠姫くんに言うんだよ?
豆原一成
大丈夫!
元気そうでよかった笑
まだ高熱の原因ははっきりは分かってないし、こんな小さくて遊びたい時期なのに拘束しちゃって申し訳ないや。
でもごめんね……俺ら、それが仕事なんだ。

怪獣役をやらされてる瑠姫を眺めながら、なんとも言えない気持ちを味わった。

瑠姫だって今さっきまで色々悩んだり泣いたりしてきたって言うのに。子供達のために切り替えて笑顔で接してる。
……まるで、いつかの俺みたいだ。
本当は泣きたくてつらくてしょうがないのに我慢して、心が追い詰められていく。そんなんじゃいつか限界が来て、笑ってなんかいられなくなる。
與那城奨
……蓮そんな顔しないの笑
川尻蓮
そんな変な顔してる?
與那城奨
眉間に皺寄ってるよ
奨くんが人差し指を眉間にぴとっと当てられる。
……もう、バカにしないでよね。俺だってちゃーんと色々考えてのこの顔なんだからさ笑でもたまに、子供たちには怖いって言われちゃう。
まあ気をつけないと、注射で泣かせちゃうんよね笑
豆原一成
……るっくん、?
豆原一成
るっくん?!るっくん!!!
一成くんの叫び声。
焦って足元から視線をあげた。

子供たちが群がる真ん中に倒れてる瑠姫。
何かと調子がいいとは言えなかった様子を思い出して、急いで駆け寄った。
川尻蓮
瑠姫!
與那城奨
ちょっとごめんね、通してね
瑠姫の顔は真っ青。
唇の血色感もないし顔色が悪い。血流良くなさそうだな。
川尻蓮
意識……ほぼないね
與那城奨
瑠姫〜、聞こえるかな?
白岩瑠姫
しょ、せんせ……
川尻蓮
どこしんどいか話せる?
白岩瑠姫
背中……痛い
背中……。
血圧測ってみないと何も言えないけど。

このままじゃ命に関わる可能性がある。すぐ移動して処置しないと。
與那城奨
純喜に連絡するわ、ストレッチャー持ってきてもらおう
川尻蓮
心エコーと造影CTしよう、大動脈解離かも
川尻蓮
瑠姫、太もも触るね、痛くないから大丈夫だよ〜
與那城奨
瑠姫、背中どこらへん痛い?
白岩瑠姫
上の方……
白岩瑠姫
たぶん、A型……
A型大動脈解離。
同じ大動脈解離にしても、緊急性が高い。

背中の痛みも他の症状もただの偶然であってくれと願うことしかできない。

太ももを触って脈を測ろうとしても、やっぱり動きは見られない。
心臓の動きが弱まってるんだ。

きっと脳にも血液が行き渡ってない。このままじゃ、瑠姫の体が危険だった。
河野純喜
ストレッチャーお待たせしました、心臓血管外科とも連絡取れてます
與那城奨
とりあえず処置室移動してバイタル測定と心エコー、CTやろう
瑠姫の服の中に手を突っ込んで聴診をする。
……心雑音。かなり弱まってるな。
川尻蓮
ストレッチャー移動します、1、2、3
河野純喜
瑠姫〜、聞こえるか?苦しいな、呼吸器つけんで〜
キッズスペースの子どもたちは硬直。
看護師さんが倒れちゃったなんて、そりゃあびっくりするよね。

正直この場を離れて子どもたちに何か起きるのが不安。でも、瑠姫は命に関わってくるわけで。
どちらかを選ぶしかないとしたら、今は瑠姫を優先するしかないんだ。

半ばダッシュで処置室に駆け込む。
ベッドに瑠姫を移動してから、3人が一気に動き出す。
川尻蓮
瑠姫〜、服切るよ〜
瑠姫の体を傷つけないように気をつけながら一気にハサミで服を切った。
その瞬間露わになる心臓移植の大きな傷跡。……俺にとったら、苦い思い出。
痩せた胸に心エコー用のジェルを塗る。その隣では純喜が血圧を測って、奨くんが手術室の空きを確認してるところだった。

瑠姫の意識は少しずつ弱まっている。
……やばいな。
なる早で心臓血管外科の先生に引き継がないと。
河野純喜
血圧高いっす
川尻蓮
じゃあほぼ確実だね
與那城奨
エコーしたらすぐ引き継げるようにしよう
與那城奨
確定診断は任せた方がいい
あくまで俺らは小児科医。
どの分野に関しても専門性が低かった。

だったら、普段から心臓や血管を専門的に診てくれてる先生の元へ。

俺らの大切な瑠姫を任せるには、やっぱりより瑠姫が楽になれるように。

エコーで見たら、やっぱり大動脈解離の可能性が高そうだった。
どこまで裂けてるかによるけど、症状を見る限り手術が必要になりそう。
河野純喜
瑠姫〜、わかるか?聞こえる?
白岩瑠姫
……
與那城奨
だめだね、意識なくなった
処置も比較的早いから、このスピードで手術まで行けば余裕で助かる。
瑠姫は若いし、病気は昔の話。
心配も不安もあるけど、絶対助かるって信じてる気持ちが強かった。

それから間もなく心臓血管外科の先生が到着して、瑠姫は運ばれていった。

その姿を見て、翔也の存在が脳裏をよぎる。
……心臓移植をしても、リスクは拭いきれない。

何をどうしよう人の体だ。絶対なんて存在しない。

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