第33話

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2025/11/30 07:20 更新
大平祥生side


病室でゆっくりしてたところ、蓮先生がカーテンを開けて入ってきた。
川尻蓮
祥生、気分どうかな?
大平祥生
蓮先生……
蓮先生、笑ってる。
……なんでだろ。

なんか怖いんだけど笑変なことされへんよな?笑
川尻蓮
今お話しても大丈夫?
川尻蓮
休みたいなら後で来るから大丈夫だよ
大平祥生
大丈夫です、翔也が心配で寝れへんし
川尻蓮
あらあら、それはそれで心配だよ?
そう言われたって、そんな簡単に寝れへんわ。
PICUにおったら会いには行けへん。ルールやししゃあないけど……会って大丈夫だよって言ってもらえるまで、安心はできへん。

碧海もあんま元気ないし。
最近、悪いこと続くなぁ……。
川尻蓮
この間の、血液検査あったじゃん?
蓮先生が緊張しているように見えた。

……なんか、よくなかったん?

そんな不安が過ぎる中、蓮先生は予想外のことを口にした。
川尻蓮
結果良かったから、一時退院してみない?
大平祥生
へ……?
驚きのあまり、理解が追いつかない。

……一時退院?

ほんまに言っとるん?この間急激に悪化したばっかやけど。
でも、翔也や碧海のことを考えるとどうも喜べんかった。

なんとも言えへん、複雑な感情。
川尻蓮
不安なら無理しなくていいし、祥生のペースで大丈夫だよ
川尻蓮
今すぐ答え出せなくてもいいから
俺に気を遣ってか、蓮先生は病室を出ようとする。
その後ろ姿を、俺は止めんかった。

誰にも言わんようにしよう。
お母さんとか話さなあかんけど、碧海や汐恩に聞こえないようにしよう。

あんなに退院したくってしょうがなかったんに、なんで。

なんでこんなに、喜べないんやろう。
院内学級は終わるのが早い。
とっくに終わって帰ってきてたけど、俺はまた院内学級の教室に出向いた。

景瑚くんに話そう。

景瑚くんは優しい。明るくて面白いから楽しくしてくれるんに、優しいからつらいときにはいつも寄り添ってくれる。

小児科ってだけあって、そういう先生は必要不可欠。
中学生くらいの人からも、まだ2、3歳の子からも景瑚くんの人気は絶大や。
大平祥生
失礼します……
そっと教室の扉を開ければ、座って本を読んでた景瑚くん。
さらさら読んでるんやなくて難しい顔して必死に読んでる感じが景瑚くんっぽいわ笑
佐藤景瑚
祥生?どうしたの
景瑚くんは俺に気づいてくれて、すぐに椅子から立ち上がった。
いつも子どもたちで溢れた教室が静かやと違和感すごいな……。

何も言わない俺を見て、景瑚くんはとりあえず俺を椅子に座らせてくれた。

景瑚くんは隣に座って優しく背中をさすってくれる。
佐藤景瑚
今食事制限ある?
大平祥生
ううん
佐藤景瑚
じゃあ飴食べる?
大平祥生
うん
景瑚くんが飴玉が入ってるカゴを差し出してくれた。
いちごみるくの飴を手に取ると、景瑚くんが個包装を開けてくれる。

……すごい、細かい気遣いよな。

いちごみるくの飴は優しい甘さやった。
治療が多いから、ほとんど食事制限がある。こんな甘いもん、なかなか食べられへん。

でも景瑚くんは、子どもに渡すお菓子にすごい気を遣っとる。
成分表見て奨先生とこれは大丈夫、これはこの子はいいけどあの子はダメ、って話してたとこ見たで。
大平祥生
……蓮先生に、一時退院してみない?って、言われたんです
佐藤景瑚
よかったじゃん、治療頑張ってたもんね
佐藤景瑚
でも元気ないじゃん
大平祥生
翔也はPICUやし、碧海も汐恩も回復してる様子はないし
大平祥生
俺だけ、って……ええんかな
佐藤景瑚
なるほどね
景瑚くんは頬杖をつきながら斜め上を見上げていた。
そっかそっかぁ〜って、いい意味であんまり重く捉えてへん感じ。

背中をゆっくりさすってくれる手は止まらない。
佐藤景瑚
碧海たちには話した?
大平祥生
ううん、話してへん
佐藤景瑚
そっか、じゃあ祥生と蓮先生だけでお話した?
大平祥生
うん……それも、ほんのちょっとだけ
佐藤景瑚
退院はしなきゃだめなの?
大平祥生
不安なら無理せんでええって
佐藤景瑚
……俺だったら、ちょっと頑張って1歩踏み出してみてもいいと思う
毎日キラキラ生きている景瑚くんらしい回答やった。

その1歩が、取り返しのつかへんことにはならんかな。

どうしてもここにいたいわけちゃう。
でも碧海たちとは一緒にいたい。

毎日の薬は嫌やし、点滴もたまに失敗されて痛い。
こんな毎日が終わるなら……それはそれで、嬉しいけど。
佐藤景瑚
翔也も碧海も汐恩も、喜んでくれると思うよ
大平祥生
でも内心羨ましいって……
佐藤景瑚
……俺だったら、ね
佐藤景瑚
俺だったらとにかく、悲しい別れじゃなくて嬉しい別れがしたい
佐藤景瑚
今回は一時退院だけど、本当に退院ってなったらさ、なかなか会えなくなるわけだから
景瑚くんの言うことはよくわかる。

何度も、悲しい別れを経験したから。
治療も虚しく亡くなったり、ここじゃ手に負えなくなって転院してしまったり。
病状が悪化してさよならするより……元気になってくれた方が、嬉しいもんなん?
大平祥生
俺……わかんないっ
大平祥生
みんなに、嫌われたくない……っ
気づいたら涙が溢れていた。

嫌われたくない。
それだけが、紛れもない本音で。

やって、俺みんなだけが友達なんやもん。
小さい頃からこの病院で過ごして、もう、ここ以外に友達なんてほとんどおらへんもん。
佐藤景瑚
不安だね、しんどいね
佐藤景瑚
俺から蓮先生にちょっと話しておいてもいい?
大平祥生
……うん
大平祥生
ごめんなさいっ……急に来て、こんな話して……
佐藤景瑚
いいんだよ〜笑景瑚くんこれが仕事だから
景瑚くんと一緒にいると安心する。

お医者さんでも看護師さんでもない。
景瑚くんは、俺らの病気を治すためにいる人やないから。

心を支えてくれる、大事な存在。
佐藤景瑚
じゃあ一緒に病室戻ろっか
景瑚くんと一緒に手を繋いで病室に戻る。
ベッドに寝かせてもらって、優しく頭を撫でてもらった。

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