第42話

親友
26
2024/08/23 13:22 更新
山崎 康太
山崎 康太
ここかぁ...。
そこは、人が住んでるか住んでいないかが分からない位ボロボロのアパートだった。ボロアパートの壁にはヒビがいくつも入っていて、大きめの地震が襲えばすぐにでも崩れてしまいそうなくらいだ。階段と階段の手すりもサビが酷い。
だが雑草はさほど酷くなく、誰かが定期的に手入れをしているのがわかる。おそらく大家かボロアパートの住民だろう。
俺はあらかじめ星夜から部屋の番号を聞いていたので真っ直ぐに向かう。だが星夜の部屋は階段を登って真ん中の部屋なのだが、なんせ階段がサビ過ぎて今にも崩れそうで怖い。今現在俺は大荷物を両手に持っているので重量も増してしまっている。
......いや待て。逆にこんなにサビているのに今の今まで壊れたことが無いだなんておかしい。そして替えてないのも。
多分この階段は頑丈で、替える必要性がないのだ。きっとそうだ。そう思う事にしよう。
でなければ、俺はこの階段を一生登れず星夜の部屋すら入る事ができない。
そんなの嫌に決まっている!
腹をくくれ、山崎康太。
星夜と一緒にショッピングモールへ行きたいのだろう?
...そうだ、その意気だ。
一歩踏み出すと、階段が
重い!
とでも言うような悲鳴が聞こえる。
ギイ、ギイ、ギイ...
心を無にしてひたすらに歩く。
階段のサビがてのひらに着くが気にするな、どうせ一瞬の事だ。
ギイ、ギイ、ギイイィィイ...!
ここで深呼吸。あと一歩だ。
よ、い、しょ!
山崎 康太
山崎 康太
ふぅ、やっと着いた...。
扉を三回ノックした。
山崎 康太
山崎 康太
星夜さん、康太です。
中から歩く音が聞こえた後、チェーンと鍵を開けた音がした。そして星夜の綺麗な顔が扉の僅かに開かれた隙間から見えた。俺の顔を確認して、ようやく扉を全開にした。星夜の後ろには葉月と見られる少年が俺の事を不審そうに見ていた。
俺を見る葉月の瞳には不思議と見惚れてしまうような色があった。視覚的な色という訳ではなく。
上手く言えないがそんな色をしていた。
星夜は俺の両手に持たれたはちきれんばかりに物が詰め込まれたビニール袋を見て驚いた様子でいた。
山崎 康太
山崎 康太
星夜さん、お疲れ様です!
早めに中に入りたいのですが...
そう言うと、星夜はビニール袋を持ってくれた。三つは星夜、一つは葉月に。
ここまで重いビニール袋を持ってきた俺への気遣いだろうか。そういうさりげない気遣いも星夜の魅力の一つだ。
俺はビニール袋を持っていた手や、腕を見た。ビニール袋の重みでずっと肉に食い込んでいたので、それが跡になってしまっていた。それとビリビリと電流が走った感じもした。
こんな重い物を持ってもらっているのが申し訳なくなって、せめてもの感謝を込めて、
ありがとうございます。
と小声で言って小さく礼をした。
そうすると、星夜は荷物を置くためにリビングへ向かった。それもそうだ。ずっと持っていたら手が変形するかもしれないと思う程重い物を早く何処かに置きたいと思うのは。
俺は鍵とチェーンを掛けなおして後に着いて行った。
リビング、と言うには少しばかりせまい和室に入ると、星夜の匂いに少し混じる葉月の匂いが鼻を通った。複雑な思いだ。
その和室の真ん中に置いてある昔のアニメで見たようなテーブルの上に大きいビニール袋をどさどさと置いた。テーブルが壊れる事は早々無いと思っていても不安になる重さなので、壊れない事を確認して胸を撫で下ろす。
山崎 康太
山崎 康太
ふー、助かりました。
ありがとうございます。
と、ここで肩らへんに違和感を感じたので肩を回してみると案の定肩がバキバキと鳴る。いつもこんな感じなのであんまり最初より気にしなくなった。最初のときは肩から異様な音が鳴ってびっくりした物だ。その後ちょっと不安になって泣いてしまった事は人様には到底言えない秘密である。
...
今気づいたが、葉月がこちらを見つめている。やはり今懸賞金をかけられている状態で星夜以外の人間と会うのは不安か。
ただの足掻あがきかもしれないが、精一杯の愛想笑いで、
山崎 康太
山崎 康太
で、この子が噂の葉月くんですか!
テレビで見た写真より実物の方がよっぽど美人ですね!
と言うと照れたように頬をほんのり赤く染めて、
中野 葉月
中野 葉月
わわ、美人だなんてそんな、滅相も無いです...
と顔の前で両手を振りながらまだ声変わりのしていない高い声で言う。
なるほどこれは...さっきの言葉はお世辞のつもりだったが、気を抜いたら可愛いと言ってしまいそうだ。
まるで誰もが思い浮かべてしまいそうな絶世の美少年だ。
神様の最高傑作と言っても過言では無いだろう。これが成長したらと思うと、恐ろしいものだ。
その後は持ってきた荷物の説明をしたり、ショッピングモールへのお誘いもした。少し渋ったがなんとか説得して許可を得た。そして今外へ出て、電車に乗っている。しかも隣。ここは譲れない。

電車で、星夜と葉月が仲良くしていたので、つい冗談のつもりで、
二人って付き合ってるんですか?
と言った。
本当の本当に冗談のつもりだった。なのに、星夜は顔を赤らめて意味ありげに目を逸らした。
山崎 康太
山崎 康太
(...え?)
そしてすかさずニヤリと笑った葉月が、
中野 葉月
中野 葉月
そうですよ。
もうキスもした仲ですから!
その瞬間、もう何も信じられなくなった。
...その時、ふと悪い考えが頭をよぎった。
こっそり警察に連絡して葉月の母親から金をもらってしまおうか、と。

電車を降りた後はいつもより何となく被る猫が増えた感じがした。
いつもの自分では無い。
いつもならこんな事しない。
でも、何となく自分を見せたく無い。とにかくその思いでショッピングモールまで向かった。
歩いているときも被る猫は増え続けていた。
ショッピングモールの中を巡ると、本屋を見つけた。俺は特段別に本が好きという訳では無い。が...
そこでは西条が本を見ていたからだ。
山崎 康太
山崎 康太
あっ!
本が好きなのかい?
山崎 康太
山崎 康太
いえ、母の容体が少し悪化してきて、医学の本を買おうと思い...。
こんな事は全くの嘘である。
少しでは無い。もう生と死の狭間にいるのだ。だがこういう事を言うと人はこれ以上立ち入れなくなるものだ。星夜のような人間は特に。
人のプライバシーには侵害しないような人だからこそだ。
俺の予想通り、本屋に入らせてくれる事になった。だが気に入らないのが、二手に分かれる事だ。けど仕方の無い事だ。怒っても意味なんてない。
せめての怒りは、ごゆっくり、と言う言葉に込めた。
俺は星夜が遠くに行ったのを確認して、真っ直ぐ西条の所に行った。
山崎 康太
山崎 康太
何してるんだ。
西条は振り返り、俺だと分かると、
ああ、と頷きながら言う。
西条の手元の本を見ると、精神学の本だ。真面目なものだ。
西条 小鳥
西条 小鳥
買い物だ。
山崎君こそこんな所で何をしている。
山崎 康太
山崎 康太
ふふふ。よく聞いてくれた!
...デートだ。
と言うと西条は驚いたように目を見開いて、精神学の本を戻した。
西条 小鳥
西条 小鳥
君に好きな人なんていたのか...!
山崎 康太
山崎 康太
いや失礼だな。
...だけどそうでも無くなってきてるかな。
西条 小鳥
西条 小鳥
なんだ、振られたのか?
図星だ。
西条は勘が良いのか良くないのかわからない。だから怖い。
急に言われるから露骨に黙り込んでしまうじゃないか。
西条 小鳥
西条 小鳥
...そうか。
それは...その、気の毒だな...。
山崎 康太
山崎 康太
や、そんな事言うなって。
そういう時は励ますとかさ...
西条 小鳥
西条 小鳥
俺ならどうだ。
山崎 康太
山崎 康太
......はぁ?
笑いがドッ、と込み上げてきた。
やっぱりコイツと友達になって良かった。こんなにも楽しくて辛い事を忘れさせてくれる友達なかなかいないものだ。
山崎 康太
山崎 康太
ふはっ!
それも一つの選択肢かもな。
西条はニコリと柔らかく微笑んだ。
一瞬、西条になら、と思ってしまったがきっと気のせいだ。西条と俺は友達だからな。
いや、それを超えて親友かもしれない。
その後はずっと時間も忘れてお喋りばかりした。やっぱり西条といると気が楽だ。猫を被らなくても受け入れてくれる。
...でも、少しだけ不安なんだ。
山崎 康太
山崎 康太
なあ西条。
西条 小鳥
西条 小鳥
ん?なんだ。
山崎 康太
山崎 康太
俺の事、その、好きか...?
西条 小鳥
西条 小鳥
...?嗚呼、好きだぞ?
山崎 康太
山崎 康太
!......へへ、
ばぁか。
ふふっ、
微笑が漏れる。
こんな嬉しいものなのか。人に好かれるのは。
それも西条に。
この思いは、やっぱり親友を超えているかもしれない。

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