昨日遅くに寝たからか七時時に目が覚めた。
布団の中で寝転がりながらゴロゴロしていると、今日はバイトだという事を思い出して先程ゴロゴロしていたとは思えない早さで身支度を始めた。外はもう明るく、いつも五時くらいに起きていた身としては若干の焦りすら感じた。だって七時なんて言ったらもう学校の生徒達はとっくに起きて支度をして、家が遠くの生徒は早くに家を出るだろう?それに対して早朝、五時頃はまだお年寄り位が散歩に出ている時間だ。罪悪感など全く無い。
俺は洗面所で顔を洗い、寝癖を治して台所に行きパンを取る。今日のパンはフレンチトーストだ。菓子パンでも惣菜パンでも早く準備ができて美味しく、片付けも楽ならなんでも良いのだ。
後は歯磨きと着替えを済ませて、靴を履いた。
自分でも驚いた。あんなに暗い空気が無くなり明るくなった途端、自然と挨拶がこぼれたのだ。俺は、
なんだ、ただこれだけの事だったのか。
と言葉を口から溢してクスリ、と笑い、西条と母に感謝して扉を開けた。
お昼過ぎに帰ると、玄関で靴を雑に脱ぎ捨てて家に入った。
もう楽しみすぎて待ちきれなかったのだ。星夜に良い人アピールをする用の物達の用意が!気の利く物を入れておけば星夜、そして葉月までも気を許してしまう事だろう。そして星夜を意識させてしまうのだ!
俺はククク、と怪しい笑い声をわざと出しながら昼飯も食べずに押し入れを漁り出した。
なぜか捨てずにいた昔着ていた洋服や帽子。おそらく何かに使えるとでも思っていたのだろうが、今の今まで使った事は一度も無い。だがたった今、使われずにいた洋服達は本来の用途では無いが使用される。洋服も喜んでいる事だろう。
お古の洋服達に感謝してこれまた何かに使えるととってあったビニール袋の中に丁寧に入れていく。絶対使わないであろう物を捨てずにとっておく...俺の家のようになんでもとっておく、というものではなかろうがこういう家庭は少なく無いだろう。
この他にも使わなくなった教科書やノート、鉛筆などの筆記用具類。
ここまでくると極限まで増やしてみようと馬鹿なノリになってしまい、貴重なお金まで費やして食料や家には無いが必要かもしれないと思ったものは片っ端から買ったので気づいた頃には財布を振っても小さなカラカラ...といった小銭の僅かな音しか聞こえないほど費やしてしまった。
そしてビニール袋も特別大きいものを四つも使ってしまった。今更頭も冷えて、何をしているのだ...と嘆いてしまうが悲観してもしょうがないものはしょうがない。もう堂々と胸を張って星夜の家に訪問するしか道は無いのだ。
時間を確認すると、午後三時過ぎであった。
俺は昼飯をとっていないのを思い出し、急いで用意をした。だがこれでは三時のおやつだ。昼飯兼おやつ、という事にした。ちなみにコンビニで店長に買ってもらった弁当だ。それと緑茶。俺がいつもパンしか食べていないから貧乏だと思ったかららしい。
まあ間違ってはいない、がおしゃべりしながらゆっくり食事をするのが時間の無駄という理由だけで、前より貧乏では無い。食事だって一日三食も食べれているのだから。
でも、前の方が食事の時間が楽しかったな。
特にたまにお金の余裕があるときに出てくる母の手作りハンバーグが好きだった。大きめに刻まれた野菜の甘みと食感が好きで、噛むとジュワリと肉汁が溢れて食欲をそそる...。
...いけないいけない。
食事に集中しなくては。
空になった弁当箱の前で掌を合わせて言うと、ゴミ箱に捨てた。そして半分位に減った緑茶を一気に飲み干した。
いつもは十分位を目安に素早く食べるのだが、今日は弁当の量がいつも食べるパンとは違いすぎて時間が三倍近くかかってしまった。
だがまだ四時になったばかりだ。時間には余裕がある。
足りないものがないか確認しなくては。
五時前。
確認したら、押し入れに入れていなかったものがあったので入れようとした。
だがそれは幼い頃我儘を言って買ってもらった飛行機の模型だ。
あのくらいの子供ならこれは好きか、と思って入れようとしたが、これがなかなか入れられなかった。
何故か。
お母さん!これ買って!
ええ?でもこれ高いよ。
友達と遊ぶために欲しいんだ、お願い!
うーん......。
ちゃんと勉強するんだよ?そしたら買ってあげる。
する、する!
テストでも百点とるよ!
約束ね?
約束!
それじゃあ指切りげんまんしようか。
わあい!
ゆーびきりげーんまん、うーそつーいたーら......
...ゆーびきった!
...あはははっ!
俺は押し入れに埃の被った古い飛行機の模型を戻して床に放置してあった四つのはち切れんばかりにものを詰め込んだビニール袋を両手で持った。少し持っただけなのに手が痛い。
ため息混じりの独り言を吐いて、壁にビニール袋をぶつけながらも玄関に着いた。
運動靴の踵を踏んで片手に持ったビニール袋を置いて扉を開けた。
そしてまたビニール袋を持って外に出た。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。