さやかside

私は走り続けた足を止めた。

教室から、逃げるように逃走し、そのまま無我夢中で走った。

誰かが、追いかけてくることを恐れるかのように。

そんなこと…有り得ないのにね。

今日来たばかりなんだから、誰も追いかけて来るはずない。

頭では、分かってるのに。

また、あの声だ…。

今日の朝聞こえた、あの声と同じ…。

もう、やめて…！

酷いことしてごめんなさい、傷つけてごめんなさい…！もう許して…!!

力が抜け、その場に崩れ落ちた。

あの子の笑顔と、さっきのクラスメイト（生徒達）の驚き、そして変なものを見るような表情が交互に浮かび、胸が苦しくなる。

どうして、私は逃げちゃうんだろう。

どうして、普通にできないんだろう…？

どうして、強くなれないんだろう…。

どうして、どうして、どうして。

自分を責める言葉ばかりが頭に浮かび、息が荒くなる。

その言葉もやはり、私の耳には届かない。

肩を叩かれて私は振り返る。

そこには1人の男性が後ろに座り込んでいた。

どうしたの、だけは口の動きで読み取れた。

でも、気が動転して思うように口が動かない。

男性は、驚くように目を見張ったあと、私の手を掴んだ。

さっきとは打って変わった大きな声に、私は身を縮ませる。

そして、私は手を振り払おうと暴れた。

逃げなきゃ！誘拐される…!

男性は何やら叫んでいるが、気が動転して冷静じゃない私の耳には全く届かない。

だから、その声も私は気づかなかった。

ただ、男の人の動きが止まったから、私はそのすきに振り払って、逃げようと背を向けた時にその人の存在に気づいた。

さっきの、下駄箱でぶつかった男の子だ。

男の子は、男性から私を庇うように私の前に立った。

何を言っているかは分からない。

けど、私を守ろうとしてくれていることはその大きな背中から伝わってくる。

その姿が、あの子に重なり私は息が詰まった。

そして、体がふらつき足に力を入れようと思った時には、もう意識が途切れていた。

のっきside

人気の少ない川の近くで、若い男性に絡まれている転校生を発見し、無我夢中で飛び出したのはいいものの…｡

どうしましょうか。丸腰に見えますが、武器を持っている可能性もありますし、どこかに仲間がいるかもしれない…｡

一方私は完璧1人で丸腰。男とは言えど、力が弱い方の部類に入る。

成人男性に敵う力はありません。

男性が口を開こうとした時。

ドサッ

後ろで何かが崩れるような音がした。

もしかして…！

そういえば、私転校生の名前を覚えていないですね。何でしたっけ？

って、そんなことより！

倒れた転校生に駆け寄り、脈と呼吸を確認する。

呼吸も脈も安定してるように思えますが…｡私は医者でもそういう知識がある訳でもないので、分かりませんね…。

そんな時、あの男性も駆け寄って来て慣れた手つきで彼女の首に手を当てた。

彼はハッキリとした口調でそう言った。

もしや、この人はお医者様なんですかね？

怪しい人ではないのかも、と思い始めた時、遠くから声が聞こえた。

この声は…！

なろきゅんに続いて、そらねこくん、かもめくん、翔くん、KAITOくんがやってきた。

たどり着くなりかもめくんは目を丸くした。

そういえば、かもめくんは転校生の隣でしたっけ。さやかさんと言うのですね。

焦りであわてふためくみんなに、なろきゅんが冷静にツッコんだ。

その声にみんな黙り、すぐ近くにいる男性へと目を向けた。