しばらく練習を手伝って、「そろそろ終わりにしよう」と声をかけられた頃には、辺りは真っ暗。二時間も経っていた。
そんなに経過していたなんて、全然気づかなかった。
先輩の表情は、私が初めて見た頃のものと同じで、ただ見とれてしまっていたから。
あの日の先輩は、見間違いじゃなかったんだ……。
部室にボールを片付けながら、浅野先輩が私を見ないまま話しかける。
暗いから見えにくいけど、毎日使っている場所だから、大体の位置は分かる。
切れた蛍光灯を顧問の先生が替えてあげると言ってくれた時から、優に一ヶ月は経過している。
……。今、なんて言った?
聞き違えでなければ、浅野先輩が私を女の子扱いしたような……。
ありがとうを言いたかったのに、先輩が話し始めたことでタイミングをなくしてしまった。
代わりに口から出てしまったのは、こんな可愛くない言葉。
言わなきゃ、ありがとうって……。
声を出したのは、ほとんど同時だった。
片付けも終わり、先輩が先に部室を出ようとドアノブを回した時。ガチッと、硬い音がした。
ドアノブをつかんだまま固まる背中に、たまらず声をかける。
先輩は心なしか青ざめた顔で振り返り、小さく告げた。
少しの間理解が出来ずにいた私は、何度か瞬いて、
久しぶりに、大声を上げた。
部室内にある壁掛け時計で確認した時刻は、午後十時。
ここに閉じ込められてから、すでに一時間以上過ぎていた。
電灯のないこの部屋では、唯一窓から差し込む月明かりだけが頼り。
その頼みの綱の窓ですら、はめ殺しになっているタイプのもので、人が手で開けることは出来ない。
部室には、大きいテーブルが一台と椅子が六脚。それと、部員各自のロッカーに、カゴに入ったサッカーボール。ユニフォーム。タオルに、ヤカン。
他に余計なものは何もない。扉を開ける、鍵すらも。
外から施錠された扉に向かって叫ぶ私に、先輩はのんびりと椅子に座ってあくびをしながら言う。
先ほどから何度目だろう、このやりとりは。
パニックになる私と、のんきな先輩。ずっと繰り返しの平行線。
この状況でさらに、ふたりともスマホが入ったかばんは部室の外というおまけ付き。
月明かりに照らされて、浅野先輩がニヤリと笑った。
朝まで、世界で一番苦手な人と。
……ふたりきり?
頭が真っ白になって、脳内で反芻させる。
浅野先輩と、このままふたりきり。それは、つまり。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!