第3話

第二話 風が導くもの
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2026/03/28 07:00 更新
現場を出たあとも、あの花の白さが妙に目に焼きついていた。

カスミソウ。

清らかな愛。

――笑えない冗談だ。
戸口颯/iw
次の現場、行けるか?

歩きながらそう言うと、隣の男は一切の迷いなく頷いた。
鹿角春伸/fk
問題ありません
即答。

疲れも、緊張も、見えない。

本当に“人間らしい揺らぎ”がない。

だが。
戸口颯/iw
……お前、ずっと集中しっぱなしだろ
鹿角春伸/fk
はい
戸口颯/iw
疲れないのか?
少しだけ意地悪く聞く。

春伸はほんのわずかに考える素振りを見せてから、答えた。
鹿角春伸/fk
疲労の自覚はありません
鹿角春伸/fk
ただ、処理量が増えると効率は落ちます
戸口颯/iw
へえ、ちゃんと限界はあるんだな
鹿角春伸/fk
はい。ですが、仕事に支障はありませんので
淡々とした返答。

……本当に、便利な頭してる。
戸口颯/iw
無理はするなよ
ぽつりと零すと、春伸がこちらを見る。
鹿角春伸/fk
無理、の定義が分かりません
戸口颯/iw
……そういうとこだよ
思わず苦笑が漏れた。
二件目の現場は、最初の場所からそう遠くなかった。

むしろ近すぎる。

同じエリア。

同じ“匂い”。

規制線をくぐると、先に来ていた刑事がこちらに気づく。
刑事
戸口、来たか
戸口颯/iw
ああ。状況は?
刑事
さっきのとほぼ同じだ。抵抗の痕なし、外傷は最小限
戸口颯/iw
死因は?
刑事
首を圧迫されてる。だが――
言い淀む。
戸口颯/iw
……なんだ
刑事
争った形跡が、やっぱりねえ
視線だけで、春伸に合図する。

あいつはすでに動き出していた。

迷いなく、現場の中心へ。

さっきと同じだ。

止まっているようで、すべてを取り込んでいる。
戸口颯/iw
……どうだ
数分後、声をかける。

春伸はゆっくりとこちらを向いた。
鹿角春伸/fk
先ほどの事件と共通点があります
戸口颯/iw
やっぱりか
鹿角春伸/fk
被害者は、加害者を認識しています
鹿角春伸/fk
逃走ではなく、距離を取る動き
鹿角春伸/fk
拒絶の意思があります
同じだ。

一件目と、完全に一致する。
戸口颯/iw
知り合い、って線は濃厚だな
鹿角春伸/fk
はい
鹿角春伸/fk
ですが、それだけではありません
春伸が、床に落ちていた小さな紙片を指す。

証拠品として回収されていたそれ。
戸口颯/iw
これ、見たか?
袋越しに覗く。

そこには、乱雑な字で一言だけ書かれていた。

――“罪は消えない”
戸口颯/iw
……メッセージか
鹿角春伸/fk
はい。意図的です
鹿角春伸/fk
偶然ではありません
春伸の声は変わらず平坦だったが、その内容ははっきりしていた。
鹿角春伸/fk
犯人は、見せつけている
鹿角春伸/fk
自分の“正しさ”を
その言葉に、少しだけ空気が冷える。
戸口颯/iw
正義気取りってわけか
鹿角春伸/fk
可能性が高いです
鹿角春伸/fk
対象の選定にも一貫性があります
鹿角春伸/fk
さっきの被害者も、過去に罪を犯している
戸口颯/iw
ああ
資料を頭の中で繋げる。

点と点が、線になり始めている。
戸口颯/iw
“裁かれなかった人間”を狙ってる
鹿角春伸/fk
はい
鹿角春伸/fk
選別されています
戸口颯/iw
……誰かがリストを持ってるな
思わず呟くと、春伸は静かに頷いた。
鹿角春伸/fk
その可能性が高いです
現場を出たとき、空はすっかり曇っていた。

春のくせに、やけに重たい空気だ。
戸口颯/iw
なあ、春伸
鹿角春伸/fk
はい
戸口颯/iw
この犯人、どう思う?
少しだけ、試すように聞く。

春伸は間を置かずに答えた。
鹿角春伸/fk
合理的です
鹿角春伸/fk
無駄がありません
鹿角春伸/fk
目的も明確です
戸口颯/iw
……それだけか?
問い返すと、ほんのわずかに沈黙が落ちる。

数秒。

あいつにしては、長い。
鹿角春伸/fk
――正しいかどうかは、分かりません
その一言は、少しだけ意外だった。
戸口颯/iw
へえ
鹿角春伸/fk
感情は分かりませんが
鹿角春伸/fk
判断は、戸口さんに依存します
まっすぐな目だった。

迷いのない視線。

全部を預けるみたいに。
戸口颯/iw
……重いな、それ
苦笑する。

でも、不思議と嫌じゃなかった。
戸口颯/iw
まあいい
ポケットに手を突っ込む。
戸口颯/iw
その代わり、ちゃんと見ろよ
鹿角春伸/fk
何をですか
戸口颯/iw
人間の“ズレ”だ
戸口颯/iw
正しさだけじゃ動かねえ
戸口颯/iw
間違いとか、執着とか、そういうので人は壊れる
春伸は黙って聞いている。

理解しているのかは分からない。

でも、逃げてはいない。
鹿角春伸/fk
……覚えておきます
そう言った声は、ほんの少しだけ柔らかかった気がした。
帰り道、風が強くなっていた。

道端に、またあの花が揺れている。

白く、小さく、どこにでもあるような花。
戸口颯/iw
……増えそうだな、この事件
鹿角春伸/fk
はい
鹿角春伸/fk
継続する可能性が高いです
戸口颯/iw
止めない限り、な
そう言うと、春伸がこちらを見る。
鹿角春伸/fk
止めますか?
戸口颯/iw
当たり前だろ
少しだけ笑う。
戸口颯/iw
これは、俺達の仕事だ
春伸は静かに頷いた。

その横顔は相変わらず無機質で。

でも――

さっきより、ほんの少しだけ人間に近づいた気がした。
戸口颯/iw
次、どう動く?
鹿角春伸/fk
被害者の共通関係を洗います
鹿角春伸/fk
そして、リストの存在を特定します
戸口颯/iw
いいね
戸口颯/iw
やっぱお前、使えるわ
軽く言うと、春伸が一瞬だけ止まる。
鹿角春伸/fk
……それは、評価ですか
戸口颯/iw
褒めてるつもり
鹿角春伸/fk
そうですか
わずかに目を細める。

それがどんな意味かは、まだ分からない。

でも。
戸口颯/iw
――相棒としては、悪くねえな
そう呟いた声は、風に紛れて消えた。

そして俺達はまだ知らない。

この事件の裏にいる“設計者”が、

想像以上に――

近い場所にいることを。

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