突然の質問に私はカヌレを口にする手を止めた
返す言葉はもちろん決まっているし、彼も分かっているはず
なのにどうして今更そんなに当たり前の質問をしてくるのだろうか
彼の表情はいつにも増して心配そうだった
整えられた眉が八の字に、美しい瞳は少し曇って見えた
彼は私の隣に椅子を置き、座った
彼の笑顔の裏にはこんなにも「心配」が詰まっていたのか
そう考えるも今まで気づかなかった自分に腹が立ってきた
そう言って彼はいつもの笑顔に戻った
この微笑みは果たして本心なのだろうか
その日から彼の態度は一変して、積極的に愛を求めるようになった
不安が消えて今まで抑えていたものが溢れ出したのか
それともただの気まぐれなのか
そこの所は私には分からない
ただ嫌な気はしないことは確かだった
むしろ嬉しいくらいだ
彼はさも当たり前かのように私の顔を覗き込んだ
彼の長いまつ毛の奥に潜む吸い込まれそうなバイオレットの瞳
まるで全てを見抜く猛禽類の様だった
綺麗と狂気が入り交じった、そんな表現が正しいだろうか
私は思わず顔を逸らした
アンティークチェアに腰掛け、彼の作ったマドレーヌを口に入れる
甘さが口の中いっぱいに広がる
ほっぺたが落ちる美味しさとはこの事か
夜11時過ぎ
暖炉を消すと、部屋はいきなり暗くなった
残ったのはランプのほのかな光のみ
彼の顔はランプに照らされたところのみが見える状態である
階段を登ろうとした時、不意に後ろに重心が乗った
そう言うと、彼は私の首元に顔をうずめた
彼は最近ずっとこんな感じた
前よりも、甘えてくる
振り向くと同時に彼は私に口付けをした
突然の出来事に頭が回らない
彼は私を抱きしめたまま、私の顔をじっと見た
こんな状況は初めてだった
しかし困惑と同時にこれが彼の中に潜んでいた感情だとわかった
隠していた膜が剥がれ落ち、本音が見え隠れする
…彼は今までこんなに脆かっただろうか
私は彼を安心させようと頭を撫でた
今度は私からキスをする
そう言って笑った
瞬間、彼の顔が安心に満ちた表情に変わった
こうして私たちの儚く、淡い夜は幕を閉じた













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。