第6話

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2024/03/10 00:46
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真っ黒い羽は、どう見ても見間違いじゃない。
呼吸が浅くなっていく。
自分の方に羽を動かして、黒い羽を撫でれば、ほかの白い羽と変わらない手触り。
女天使に触られてたジェノが、まだ火傷も治りきってないのに、私に急いで近づいてくる。


😇「あなた、どうしてっ、!?」
「わ、わからな、ジェノ、どうしようっ」
AL「貴女……悪魔……!?」
「んなわけないっ、!私は、私は天使……天使じゃないの?ジェノ、やだ、離さないで、私を捨てないでぇっ」
😇「あなた落ち着いて、きっと大丈夫だよ、こんなの、たまたまだよ、ラファエル様のところに行こう、癒しを司る大天使だよ、きっと治してくれる」


さっきの感情の名前がわからない。
お互い愛し合っているジェノがほかの女に触られた時に、許せなかった。
でも私たちはパートナーな訳では無い。
私はジェノの妻では無い。
だから、女天使のことを止めることも出来なかった。



女天使「ジェノ、触ったらいけないわ。あなたも悪魔にされたらどうするの?」
😇「まだ分からないかもしれません」



ジェノがキッと女天使を睨むと、慌てたジェミンがふわりと飛んで、私たちを遮るように女天使に寄り添った。


🐰「あなたとは僕らは付き合いが長いのです。お許しをレディ。僕の怪我を治すのをお願いできますか?」


睨むジェノを遮って、私たち二人に後ろ手で「行け」と合図する。
どうしよう?私の中でさっき生まれた感情が、もし、もし負の感情だったら。
私たち天使は負の感情を知らない。名前も、分からない。
ただただ脅えて、ジェノと一緒にラファエル様の元へ向かう。


ラファエル様は驚いた顔をされた。
その羽は、いつ生えたんだと。私に問うた。
素直に答えれば、悪魔に力を注ぎ込まれたのだろうと言われた。
悪魔とまぐわったか?そう聞かれた時は、苦しくて仕方なかった。そんなはずは無い。私が?ジェノを置いて、どうでもいい悪魔となぜならまぐわったりしなければならないの?

そう疑われたのが悔しくて。
ラファエル様の前で、黒い羽を思い切りむしり取った。
激痛が走り、唸る。それを見たラファエル様が慌てて私に治癒をしてくれようと、近付かれた。



😇「あなた!?!?!っあぁっ、こんなに血が、何してッ!」
「人間のようにあなたとの未来は望めない、分かってる、私たちは天使だもの……!なのに、、なのに!!悪魔とまぐわう事を疑われるようなこんな黒い羽、いらない、、いらない!!私は……私はッ……!!」




ジェノが好き。
そう言いたかった。
ラファエル様は、あの感情の名前を教えてくだからなかった。


抜いた2枚の羽の根元は、まだ白かった。
ラファエル様が私の羽を治すと、次に生えてきたのは真っ白い羽だった。
もう心も体もぐちゃぐちゃだった。感情の整理ができない。ジェノが好き、こんなにも愛しているのに、人間と同じように恋ができないことが、どれほど苦しく、つらく悲しいか。


きっと人間は知らない。
それなら恋をして、振られての痛みを知ってる方がよっぽど良い。
私たちは、どんなに下級天使でもそれが許されないんだから。
ジェノと一緒にジェミンとチソンの元に戻れば、悪魔との抗争はいつの間にか終わっていた。
ウリエル様が終わらせたそうだ。

ウリエル様は、ミカエル様やラファエル様たちと並ぶ七大天使のうちのおひとりで、別の名を「破壊天使」なんて呼ばれ方もする。厳格で、とてもお厳しい大天使様だ。


ちなみに私たち天使の中でも、私たちみたいな下っ端はただの「天使」で、9つの階級で分けられた時に一番下に該当する。次に「大天使」で、要するに下から2番目に該当するのが我らが上司のミカエル様やラファエル様たちだ。


人間からすると、思いの外、大天使様でも階級が下に思うかもしれないけれど、幾つも居る天使たちをまとめ、悪魔との戦いを率いたりして下さるのは大天使様しかできないことで、階級に囚われず、力を持つのが彼らだ。


天使の中でも1番上の天使様を、熾天使(してんし)と呼ぶ。名前をセラフィム様と呼ぶ。私たちですら、容易に会えない。私が神様に会いに行けたのは、実際に神様に会いに行ったのではなく、大天使様やその一個うえの権天使(けんてんし)様に指示を仰ぎに行っただけだ。つまり、間接的に神様に会ったのだ。

神様自身にお会いするのは、私たち下級ではめったなことがない限りお会い出来ない。
ただ、熾天使セラフィム様や、その下の智天使(しちてんし)ケルビム様、そして座天使(ざてんし)オファニム様(車輪の形をした天使様)たちは、私たちのようなお姿をしていらっしゃらないから、私たちですら目の前にすると緊張する。

ひとまず、争い事が終わってよかった。
人間界にも、害はないようだった。


戻ると、ジェミンが女天使に傷を治してもらったおかげで、ピンピンしてる。ジェノもさっきラファエル様に治して貰えたから、あの火傷ももう大丈夫だ。



🐰「あなた!大丈夫だった?おいで」
「ん、、、治してもらえたよ、ふふ、ジェミナ〜♡」
🐰「おもおも♡」



ジェミナが大きな羽を広げながら、大きく腕を伸ばして、私を抱きしめた。
ジェノが「あっ、、や、やーっ…」と止めようとしてきたから、戻ろうとしたけど、ジェミナにぐっと引き寄せられて動けなくなる。



🐰「なんですぐにジェノのところに戻ろうとするの?僕らは8人で一緒、でしょ?」
「そ、そうだけど…」



ジェノが近づいてきたのがわかって、ジェミンを押し退けようとしても、ビクともしない。
ついでにジェミンが羽で私を抱きしめたまま、周りを覆おうとした。


😇「っやー……それはダメ、、」


ジェノが慌てて止めに入る。
ジェミンの腕の中に収まる私をグッと引き剥がして、自分の方に抱きしめた。
チソンが恥ずかしそうに、取り合いを見て、苦笑いしてる。


🐹「け、喧嘩しないでください?笑」
🐰「してないよぉ……また取られちゃったよー」
😇「笑……あなた、もう羽、痛くない?」
「うん、痛くないよ、大丈夫」


ジェノが私の腰に手を回して、もう片手で私の首筋を大きな手でスリスリと撫でながら、そのまま私の羽を触る。
擽ったくて、へんな気持ちになってきちゃう。
その顔を見たジェノが、私ごと、丸ごと、ジェノの大きな羽で覆い隠して、私たちを個室のように2人きりの空間を作って閉じ込めた。
羽の向こう側から、ジェミンが「あー!ずるい!」って怒る声が聞こえる。
2人きりになった瞬間、もっと甘やかしてくるジェノ。


😇「ふへへ♡……可愛い…かわいいね、あなた」
「ジェノ♡」
😇「ん…♡」
「……悪魔にならなくて、良かった」
😇「うん……本当に、」
「でも、なんで、かな」
😇「なんでだろう…アザゼルに、触れられた時かな」
「……このまま、様子見してみるね。私の羽に、何かあったら、ジェノも教えてくれる?」
😇「分かった、教える」


ゆっくりと羽が開かれると、外では私たちをおちょくるように、ロンジュンたちが帰ってきていた。



🦊「2人きりで羽の中で何してんだ〜?笑」
🐬「ほんと、あなたはジェノといつもイチャイチャしてる笑」
🐰「……仲良しでいい事だよ、笑」
🐯「そういうことなの?笑」



みんなが笑う。
優しい時が、また戻ってきた。
ジェノの傍から離れたくなくて、ずっとジェノに体のどこかしらを触れさせてた。ジェノが気づいたように私の腰に手を回して、ぎゅっと指をまげてくれる。触れていないと、そうしないと、不安だったから。

ヘチャンが笑って私を覗き込む。


🐻‍「なんだか分からないけど、あなたはずっとそうやってジェノに甘えてな。その方がずっといい」
「んぇ?なんで、?」
🐻‍「んー……勘?笑、1人でいない方がいいのはもちろんだけど、俺らと一緒でもいいんだけど、そうじゃなくて、ジェノのそばにいた方がいいよ」
「わかった笑」
😇「大丈夫だよ、離さないから笑」
「……何があっても、そばにいてね」
😇「!!……もちろん、一緒にいるからね」



心の中で黒い感情が渦を巻いているのがわかる。
良くない感情だってことも、わかってる。
ラファエル様が教えてくれなかった黒い感情には、蓋をして、気づかないことにした。
ううん、気づいてないことにした。


私は、あの黒い負の感情の名前が何なのか、うっすら気付いてる。わかってる。
でも、自認したらきっと私は天使では居られなくなる。

だから認めたくなかった。
認めたら私は堕ちてしまうって、分かってたから。

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