目を覚ますと、黒と白しか色がなかった。
海は黒。
空も黒。
雲は白。
もともと、色なんかに執着して生きていないし、朝起きて目の前が味気なくても
ああ、そうか。
とすぐに受け入れられた。
清々しいほど明暗が別れててさ、ねずみ色なんてめんどくさいものは存在しないんだよ。
何だか楽しくなってきたから鼻歌を奏でたりして。
コーヒーを啜りながら、真っ黒だなぁ と当たり前のことを考えたりしたものさ。
僕は何気なく洗面鏡を覗き込んだんだ。
そこには誰もいなかった。
何も映らなかった。
_______________黒か、白かの世界。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!