第24話

詩人と詩人
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2021/04/04 08:51 更新
「あっいた、おーい北原ー」島崎が談話室に入ると北原がソファーに腰掛けていたのを見つけた。「しっ島崎さん…」わっと驚いた顔をしていきよいよく島崎の方を向いた。「島崎さん…僕は無責任な事を…」
「はい、これ上手く出来てるか分からないけど新作の詩だよ」島崎の手には3枚程の原稿用紙があった。困惑した表情を浮かべながら原稿用紙を受け取ると、そこには詩が綴られていた。北原は嬉しいという気持ちでいっぱいだった。その場で胸を踊らせて原稿用紙をペラペラとめくり、読み終わると自分が知っている、あの頃ハマっていた島崎藤村の詩の世界がここにある、と思うと自然と涙が出てきた。「どう?久々に詩を書いたから自信が無いんだけど……どうしたの北原?泣いているよ?」
「あっ…何もないのだよ…ただ嬉しくてつい」手で涙を拭っていると島崎が手ぬぐいを差し出した。藤の花の刺繍がされた白い手ぬぐいだった。その手ぬぐいを借りて談話室で一人の男が憧れていた詩人の目の前で涙を静かに流した。談話室の入り口の扉の横で二人に見つからないようこっそりと徳田は会話を盗み聞きしていた。中の様子は見えなかったが、心配する事が無くなったなと思い、気づかれないようこっそりとその場から立ち去っていった。談話室に入る光は赤く、周りの景色を赤黒く染め二人を優しい赤で包み込んでいた。

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