〈ばぁう目線〉
ゆきむらの顔を見てほっとしたのと同時にこれ以上心配は掛けられないと思い無理矢理にでも笑顔を作った。
ただでさえラジオ番組が始まって忙しいというのに他のメンバーの悩み事まで抱えさせるわけには行かない。
俺は大丈夫。大丈夫だから。
洗面所で手を洗いながら鏡の中の自分に言い聞かせる。
台本読みしか取り柄がないのは事実だろ。
こんなことでメンバーに迷惑は掛けられない。いや、掛けちゃダメなんだ。
必死に笑顔を取り繕って何事もなかったかのようにキッチンに戻る。
女子高生の言葉を聞いたあと急いで本屋を出てその後スーパーでも逃げるように買い物をしたから玉子と牛乳しか買っていないことにも気付かなかった。
連日の忙しさに2人ともまともに買い出しが出来なかったせいで冷蔵庫にはほんの少しの食材しか入っていない。
何気ないゆきむらの言葉がとても温かかった。
具材がベーコンだけのオムライスだったにも関わらず美味しそうに食べてくれた。
ゆきむらの美味しそうな顔は心の奥底に刺さった棘を溶かしてくれた気がした。
けどその日から女子高生達がいたお店の付近には行けなくなってしまった。
行ったらまた悪意のある棘が飛んでくるかもしれない。
そう思うとあの本屋の近くのスーパーでさえも入れなくなって、結局いつもと違う店で買い物をするしかなかった。
数日後
”例のワード”を聞いた瞬間心臓が跳ねた。
この前とは違うスーパーで別の女子高生が騎士Aの話をしている場面に遭遇してしまった。
足を止める気なんてなかったのに身体が言うことを聞かない。
足が動かない。否が応でも女子高校生の会話が耳に入ってくる。
自分だってそう思う。
そんなこと昔から分かってるだろ。
てるとのオマケ。その言葉が胸に深く突き刺さる。
深く突き刺さった鋭利な言葉の数々が俺から自信を奪って行く。
気付けばスーパーから出てきてしまっていたらしい。今日も買い物が出来なかった。
夕飯の材料を買うことさえも出来ない。
自分はメンバーのお荷物。
歌もダンスもトークも血反吐が出るほど練習してやっと皆について行けていると思っていた。
でも自分の頑張りは世間では全然足りない、下手くそなお荷物だと思われているなんて。
あとどれだけ練習すればみんなと並べるんだろう。
どれだけ練習すれば世間に認められるのだろう。
台本読みが取り柄では認めてもらえない。
喋ってもうるさいと言われる。
、、、だったらこれ以上どうすればいいんだよ。
深く刺さった言葉が頭の中を駆け巡る。
買い物も出来ないで帰路に着こうとしていた背中を聞き覚えのある、柔らかい声が呼び止めた。
まひとの顔を見てほっとした。それでも一度胸に刺さった棘が抜けることはない。
まひとが一緒に店内を回ろうと言い、今俺がちょうど出て来たスーパーに入ろうとする。
そう言うとさっきまで疑いの目を向けていたけど急に表情を変えて付いてきてくれた。
まひとと一緒なら買い物は出来た。
でも、一人で買い物に行くのは怖くて出来なくなった。
俺にとって歌い手は人生最後の夢であり生き甲斐だった。
同時期に活動を始めた同期たちがどんどんデビューしていく中、唯一自分だけどれだけ努力しても周りに取り残され続けた日々。
その日々が俺にとってコンプレックスでしかなかった。
『俺、◯◯ってグループで活動することになったんだ』
その言葉を聞く度に自分には何も魅力がないと孤独感を思い知らされた。
初めて女子高生達の言葉を聞いたあの日から深い眠りに就くことも出来なくなった。
自分の耳で聞いた言葉を夢に見るようになってしまったから。
それと同時にメンバーに悪口を言われる夢も見るようになってしまった。
飛び起きると視界に入ってきたのは見慣れた天井。
周りを見るとそこはベットの上。急に起き上がったせいで目眩がする。
体が震えてうまく力が入らない。
時計を見るとまだ午前3時だった。
……メンバーは絶対そんなこと言わないって分かってるのに。
それでも疑心暗鬼な頭は勝手な想像で自分の首を絞めていく。
午前3時に目が覚めてしまってから一睡もできず、気付けば時刻は午前7時。
今日は朝からラジオ番組の事前収録があるから大体8時前くらいには家を出るつもりだった。
けどこの空間にいる事自体キツかったので少し早く家を出てラジオ局へ向かうことにした。
そう言ってずいぶんと早く家を出た。
気付けば作り笑いが得意になっていた。
でもどんなに笑顔を作っても心の底から笑えることはなかった。
























編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。