お父様は…昔は優しかった。
あの日までは…
私が…アレスのシステムを受けた後だった。
父親はアレスのシステムによって暴力男になってしまったこと。
お母様は意識不明…お兄様達は行方不明になってしまった。
気づけば無意識に部屋を飛び出し、自分は走っていた。向かう先は大切な人の元。今何をしているのかなんて関係なかった。
ただ、その姿を見て安心したかった。それだけだった。
無我夢中で走っていたから、自分の進行方向に誰かがいたことに気づかなかったんだ。
目の前にいたのは白いスーツを着た男性だ。ぶつかったことに対して怒るのではなく、こちらの様子を心配してくれた。
……あの時、私はどうして走り出したのだろうか。
男性にしがみつき、縋るようにそう言ってしまったのだろうか。
……そんなの、疑問に思わなくても分かってた。
そうだ……お兄様達が行方不明で…お母様が眠っている姿を見て自分は……”私”は怖くなったんだ。
あの人がいなくなった時を想像して、怖くて怖くてたまらなかったんだ。
お母様とお兄様達いなくなった後、僕は本当にひとりぼっちになってしまう。何よりも大切な存在であるからこそ。
僕は親の愛情を自覚する前に父親を失った。だから僕が愛情を受けていると自覚できた存在はあの人で。
だからあの人がいなくなることを想像したくなかった。病気を患っているという事実が更に僕を恐怖へと落としたんだ。
あの時の私は、男性が救い人に見えたんだ。
怖いこと、見たくないもの……僕が想像してしまう未来を、可能性を消してくれるというのなら、僕は何だってやる。
涙でぼやける視界のまま、男性を見てそう伝えた。……相手の顔は視界の状態もあってはっきりと断言できないけど、笑っていたように見えた気がした。
長い車に乗せられしばらく経った後、着いた場所は大きなビル。男性に着いて行き案内された場所は……周りに機械が設置された椅子が置かれた妙な部屋。
散々車の中で聞かされた内容。
その内容は僕にとって嫌いなこと……言ってしまえば”ドーピング”に当たるのではと思っていた。
これだけは譲れない。譲りたくない。
私の力そのままを使えば良いじゃないか。アレスシステムを受けたという偽の情報を流してしまえばそれでいいじゃないか。
サッカーの情熱を失いたくない…!
そうだ。私は頼み込んだ身……この人の命令には逆らえない。
私の力では……いや、まだ子供であるから解決することができない。他に頼る人なんて思い着かない。
だから私にはこの人しか頼れる人がいないんだ。……言う事を聞いて当然な人なんだ。
椅子に座らされ、目元に何か着けられて見えなくなる。その後、腕、足……と、身体に何かが着けられている感覚がする。
これから何をされるのか。説明を聞いてたとしても、想像ができなかった。
……そう思っていた瞬間だった。
急激に頭に入ってきた情報に頭が真っ白になる。
なに、これ……頭が上手く回らない……なにもかんがえられない。
男性……御堂院宗忠がそう言ったのを最後に、私の視界は真っ暗になった。
……その後、目を覚ました私は、自身の名前と、やるべき事以外の事が何も分からなくなっていたんだ。
二重人格の僕と本当の私によって記憶が分別されていたのだ。
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。