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第1話

ジュンミン
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2026/03/21 03:46 更新
きっかけは単純だった。 

雨の中、なにも持ってなかった俺に 
彼女は傘を貸してくれただけ。
















新卒で入ったKQ Entertainmentの所属アーティストである
ジュンミンと、企画部の1社員であるわたしは、
廊下で挨拶する程度の関係に過ぎない。


芸能事務所のスタッフとアーティストの関わりなど、
そんなものだ。



いつものように出勤し、いつものように仕事を始める。



こんな単調な毎日が、わたしの人生なのだ。






同僚がこっちへ歩いてくる。

「あなたさん、おはようございます」

「うん、おはよう」

「そういえば知ってます?
今日から1週間は、早く退勤できるんですよ」

「え、聞いてないけど、なんで??」

「最近流行りじゃないですか、退勤を早くして、生活を充実させていくんですよ!」

「そっかー、、まあわたしには関係ないかなー、彼氏もいないし、友達も仕事で忙しくて遊べないし」

「えー、せっかくですしどっか飲みに行きましょうよー」

「うーん、ごめん遠慮しとく
今日xikersの新しいコンテンツ企画の会議があるから」 

「分かりました…でも先輩、仕事もほどほどに 
してくださいね、ワーカホリックですよ」

「分かった分かった、こんど飲み行こうね」





午後

会議室にわたし、チーフ、マネージャー、xikersのメンバーたちが集まった。





メンバーたちは積極的に意見を出していく。

「春になるし、ピクニックとかどう?」

「いいかも」

「俺は絵描きたいかな、久しぶりに」

「とにかく遊びたい!」

「ヒョン、ヒョンはなにしたい?」


セウンがジュンミンに聞いた。


このところ会議の度にxikersのメンバーに会うのだが、
その度にジュンミンに違和感を覚えていた。

いつもの明るさがなく、どことなく元気が
ないように見える。

しかも、わたしがいないときの会議室では、
ジュンミンの笑い声がよく聞こえてくるのだ。

わたしの進め方がよくないのだろうか、それとも
気づいていないところでなにかやらかしていた?

とりあえず、よくは思っていないのは確実だ。



「俺はべつになんでもいいかな」



こちらをちらりと見て、ジュンミンはそう言った。




この子、やる気がないのか何なのか…


不可解なまま、会議は終了した。



「お疲れさまでした」

よし、疲れたし、今日は映画でも見に行くか。

いや、でも飲みの誘いを断っといて偶然会ったりしたら
気まずいから、やめるか?




会議が案外早く終わり、るんるんで退勤しようとした時


「あの」


声がした。

振り返ると、ジュンミンだった。



「帰るんですか?」

少し緊張したような顔で、彼は言う。



「ああ、はい、今日はもう仕事も終わったので」

「そうなんですか、」




沈黙。




なんなんだろう。なにか用事でもあるのか?



「あの、じゃあわたし帰りますね、お疲れさまでした」


 気まずい空気から逃げたくて、やっと声をふりしぼる。



「あの!待ってください」

「もし良かったらごはん行きませんか?」

「俺、相談したいことがあって…」



「え?」



急な誘いに、思わず面食らってしまう。だが、


「…あの、じゃあわたしも気になってた事があって、」


この際、会議で気になったあのことを、話してみようか。




「えっと、どこ行きます?」




すると、先ほどまでの固い表情から一変し、

「ほんとですか!」

「俺、おいしいところ知ってるんです、行きましょう」

と返してきた。










落ち着かないまま、事務所から5分ほど歩いた。すると、

雰囲気の良いレストランカフェのようなところに着いた。





「あの、それで相談したいことがあるって
言ってましたけど、何ですか?」


 




「えっと、」

「いきなりなのでびっくりされると思うんですけど、」

「俺、あなたさんのことが気になってます」








どういうことなのか、見当もつかない。



彼はなんならわたしをよくは思っていないのではなかったか?

それがなぜ気になるになるのだろうか、
そもそも、ろくに話してもいないのに。

気になってるなら、会議のときのあの感じは何なのか。


一瞬で色々な考えが出過ぎて、言葉が出なくなってしまった









「…えっと」

「その、気になるっていうのは一体どういう意味での?」



「…恋愛としての、です」




心なしか彼の顔が赤く見える。




「…あの、でも、わたしからすると、」


「なんならジュンミンさんはわたしのことをよく
思ってないのかと思ってました」

「わたしが気になってて、話したかったのもこのことです」




わたしも勇気を出して言ってみる。




「あ!えっと、それは…」

「いつも緊張してただけです、」

「変に思われたくなくて、気になってる人の前で
いつもみたいには話せなくなってたんです」

「よく思ってないこと無いです、」

「むしろ、好きに近いです…」





予想外の言葉に、黙ってしまった。




「…なんで、わたしのことが気になってるんですか?」

「あんまり話したこともないし、コンテンツ企画を担当する前にも、接点はなかったと思うんですけど…」

「それに、アイドルですし綺麗な方とか素敵な方が
周りにいっぱいいますよね?」

「それなのに、なんでわざわざわたしなんですか?」








ジュンミンは、少し悲しそうな顔をしてこう言った。


「もしかしたら俺のこと覚えてくれてるのかなと
思ってたんですけど、」

「あなたさん、俺、事務所に入る前、」

「あなたさんと会ったことがあるんです」

「覚えてませんか?」

「聖水洞のバス停で泣いてた男のこと」










そう言われて、ふと思い出した。

5年前、社会人1年目でなにもかも上手くいかなかった
時のことを。


当時、
家までの帰り道、泣きたくなるくらい辛くて、
紛らわそうとして聖水洞の居酒屋へ向かっていた。



すると、背の高い男が、バス停に座って号泣していたのだ。

あまりの泣きっぷりに、見過ごせなかったので、




「ここのバス、来るのがよく遅れるんですよ、」

「もしよかったらこれ貸すんで、歩くほうがいいかもです」



そのときはおせっかいしちゃったかも、と後悔したものだが

まさかそのときの男が、ジュンミンだったとは。





「俺、あのとき練習生になりたてで、」

「毎日不安でできない自分が嫌で、」

「練習の合間に逃げ出して泣いてたんです」

「家に帰りたくてバス停まで行ったりして」

「そんなときに傘貸してくれたあなたさんが、 
俺にとってはすごくありがたかったし、
天使みたいに見えました」



「だから、デビュー組に入れて始めてスタッフさんたちに会いに行った時、びっくりしたんです」

「会いたかった人が、同じ事務所で働いてたから」

「これは運命だって、思いました」








「…そうだったんですね」

「わたしなんかでも、ひとの役に立ってたんだと思うと、
嬉しいです」





「本当に、ありがとうございました」

「あ、今日言いたかったのは、これだけじゃなくて」

「これから、俺、あなたさんにアタックしていく
つもりです」



まっすぐな目でわたしを見たまま、彼は言う。




「俺のこと意識しててほしいんです」

「好きになってくれ、とは言いません」

「これから俺、頑張るんで、」

「必ずあなたを振り向かせてみせます」




自信に満ちた目で、ジュンミンは言った。




どくん、どくん




さっきからどきどきしているのは、驚いたせいなのか、
それとも彼の言葉に、だろうか






「…まだわたしはジュンミンさんのことよく知らないので」

「またごはん行きませんか?」

「お互いのこと話しましょう」






自分でも驚くほど、すらすらと次の約束をしていた。


「はい!」

「連絡先も交換しましょう」


今まで見た中で一番の笑顔で、彼は言った。










これで良かったのだろうか。


この関係は、ばれたら彼はもちろん、
わたしや色々な人に迷惑をかけるだろう。


それでも、彼の真っ直ぐな目と言葉に、
わたしは強く惹かれていたのだった。




























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