寧々の部屋で、体育座りをしてベッドに座る寧々を見上げる。寧々が貸してくれたパジャマはもこもこしていて、鼻を近づけると花のような柔軟剤の香りがふんわりと鼻腔に広がった。
ぷい、とそっぽを向いて顔を赤らめる寧々。こんなところは変わってないなと何だか少し微笑ましかった。
聞けば寧々が嬉しそうに恥ずかしそうに答えてくれるとなんて思って尋ねる。
すると、寧々の瞳孔がかっと、大きくなった。
寧々は微かに震える膝をぎゅっと手で抑えて俯く。
ポロポロと涙が彼女の菫色から零れ落ちる。突然のことで状況が掴めず、私は阿呆面をして戸惑ってしまった。
その言葉で、何が起こったのか容易に想像できた。彼女の昔からの緊張しいで責任感の強い所も何ひとつ変わっいなかった。
何だか、羨ましかった。しっかりと自分の芯がある彼女が。芯もなくてぐにゃくにゃしている誰かとは大違いだと思った。
私は彼女の横に座って、彼女の頭をぐりぐりと撫ぜる
今、歌える?
そう聞こうとする前に、彼女が唇を開いて、息を吸い込んだ。
透き通るような声に、混じった息の音。昔公園で聞いた彼女の歌と何一つ変わらない美しさがあった。
何だか、懐かしくなって私はそっと瞼を閉じた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!