屋上のフェンスに手をかけて、ぼんやりと行き交う車を見ていた。
がちゃり、と後ろの方で音がして振り向くと見知った顔があった。
憔悴しきった顔で瑞希は僕を見る。
瑞希は声を荒げて、そう言った。
また、あなた。何だか過保護な母親のようだと思った。あんなことをされたのに、瑞希は健気で。
まるで昔の、汚れてしまう前のあなたのようだと思った。
「もう良いじゃないか」
僕は思わず呟いた。
最近のあなたは、どうも変だった。
僕の所為だと責めるあなたの頬は酒に酔ったように酷く紅潮し、昔は青く透き通っていた瞳はどろどろに歪んでしまった。
依存されるのが気持ち悪く、そして心地よかった。
僕もきっと酔っていた、彼女に。
瑞希の肩に手を置き、そう語りかけると彼女が顔を上げた
僕の手を振り払って、瑞希は僕を睨みつけた。
僕は驚きのあまり何も言えなかった。只々手の甲の痛みがじんじんと響く
そんなの、と瑞希は僕をまくしたて続ける
はぁ、はぁと、瑞希は息を切らしてこちらをもう一度睨みつけた
先程とは打って変わって酷く冷たい声は、僕の体を硬直させた。
ガチャン、と屋上の扉が閉まる音だけが残っていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。