「学校にいかなくてもいいから家から出ないで」
母にそう言われ、鍵とお金を没収された。
独り、三角座りで、ぼおっと眼の前の壁を見る
優しい類に会いたいよ。瑞希に出会う前の類に会いたい。
涙が溢れて、私は腕に顔を埋める。柔らかくて冷たい服は、温かな類の手とは大違いだった。
もう、優しい類が帰ってこないのも、あの生暖かくて心地良い日々に戻ることができないのも分かってる。
でも、もう一度だけあの、砂糖菓子のように甘い類に会いたかった。
一度でいい、この頬の涙をそのごつごつとした手で拭ってくれれば。私を抱きしめて「大丈夫かい?」と優しく微笑んで、頭を撫でてくれれば、私は満足なのに。
嗚呼、消えてしまいたい。
誰の目からも触れられぬ、何処か遠くへ行きたい。
何処か…何処か遠くへ__
ピコン、と床に置いていたスマートフォンが鳴った。
私がLINEの通知が来るようにしているのはたった1人だけ。
大急ぎで手を伸ばしスマホを拾う。
【大丈夫かい? この前はすまなかった。】
嗚呼、嗚呼、嗚呼……!!
先程とは違う涙が零れる。嬉しくて、嬉しくて。スマホをぎゅっと抱きしめた
わたしはここにいて良いんだと、認めてくれた気がした
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。