第109話

♡♡
964
2023/03/15 09:34



チュンチュン…




子鳥のさえずりが聞こえる。
青葉は小さく揺れて、懐かしい匂いがした。





…金木犀の香りだ。





目の前に聳え立つ、大きな建物。







あなた
ん…学校?



だって、目の前にある近未来的な構造をした建物は…紛れもない、私が通っていた雄英高校だったのだから。




あなた
私…
切島鋭児郎
よーっす!


後ろから感じる衝撃。




切島だ。




あなた
…きり、しま?
切島鋭児郎
ん?なんだよ、死んだヤツに会ったみたいな顔してよぉ。


そりゃそうだよ。
だってあなた達は私が会えないはずの人で…
私が立っているこの場所は、私がどれだけ願っても立つことのできない場所。




爆豪勝己
なにボサっとしてやがる。
はよ歩きやがれ。
あなた
ばく、ご?
爆豪勝己
あ?
上鳴電気
もー、俺の従姉妹を虐めないでよね!!
あなた
でんき…
瀬呂範太
そーそ、瀬呂くんの目が黒いうちは許しませんよ〜
あなた
はんた…


嘘だ、こんなことあるわけない。




2年になってクラスが離れてからは、ふたりと顔を合わせることもほとんど無くなったんだから。




瀬呂範太
ほらほら〜ぼさっとしてると瀬呂くんがお姫様抱っこしちゃうよ?w
あなた
え…?!ダメ!!



おかしい…




何かが変だ。
夢の中なのはわかる。でも、なにか変なんだ。


上鳴電気
あ、きたきた。


電気の視線の先を見ると、そこには…




紫色のふわふわした髪が体が動く度にサワサワ、と揺れていて、その瞳は揺るぎなく静かに燃え上がるような紫色をしていた。
血色の悪い顔は、どこか幼くて。




瀬呂範太
お前の大好きな心操じゃん?
あなた
…ッ


…違和感だ。




無い。無いんだ。



切島鋭児郎
ん?お前さっきから首元触ってるけどなんか失くしたのか?



人使くんからもらった…ネックレスがない。




あなた
…なんで、
切島鋭児郎
俺も探そうか?
あなた
…ねぇ、私って…その、彼氏いる?
切島鋭児郎
はぁ?!
爆豪勝己
…(ピクッ
切島鋭児郎
知らねーよ…!
でもそんな話は聞いたことねえけど?
つか、自分の話だろ?
あなた
…そっか。


なにか違う気がした。



とても大事な…何かを。
心の中からなにかがすっぽ抜けたような、虚無感だ。



とても幸せな毎日。



楽しい高校生活。




…それなのに


切島鋭児郎
仕方ねぇなぁ。
俺が心操くん呼んできてやるよ!
あなた
ちょ…!切島?
瀬呂範太
面白そうじゃん?
俺も行こ〜
上鳴電気
ちょ…俺は認めてないんですけどー!
爆豪勝己
うっせえんだわ。


大切な何かが思い出せない。



だけど、…この人たちといると。







その何かを思い出したくない。
そんな気持ちにさせられた。





そして…



心操人使
アンタが上鳴あなた?


その声を聞いた途端、世界が止まった気がした。



風が空を切る音も。
普段なら気にもしない、虫の囁きも。



全てが聞こえなくなって。
周りのものが止まって見えて。




まるで、今この世界には





私と、人使くんの2人だけしかいないようだった。





あなた
あ…

目の前にいる人使くんはなんだか、幼くて。



だけど、ずっと会いたかった彼が今は…目の前にいる。







ずっと後悔していた。
あの時、連絡をしていれば。
遅くなっても、少しでも。




そうしていれば。





好きだと。
そう伝えるだけで良かったのに。





プリ小説オーディオドラマ