チュンチュン…
子鳥のさえずりが聞こえる。
青葉は小さく揺れて、懐かしい匂いがした。
…金木犀の香りだ。
目の前に聳え立つ、大きな建物。
だって、目の前にある近未来的な構造をした建物は…紛れもない、私が通っていた雄英高校だったのだから。
後ろから感じる衝撃。
切島だ。
そりゃそうだよ。
だってあなた達は私が会えないはずの人で…
私が立っているこの場所は、私がどれだけ願っても立つことのできない場所。
嘘だ、こんなことあるわけない。
2年になってクラスが離れてからは、ふたりと顔を合わせることもほとんど無くなったんだから。
おかしい…
何かが変だ。
夢の中なのはわかる。でも、なにか変なんだ。
電気の視線の先を見ると、そこには…
紫色のふわふわした髪が体が動く度にサワサワ、と揺れていて、その瞳は揺るぎなく静かに燃え上がるような紫色をしていた。
血色の悪い顔は、どこか幼くて。
…違和感だ。
無い。無いんだ。
人使くんからもらった…ネックレスがない。
なにか違う気がした。
とても大事な…何かを。
心の中からなにかがすっぽ抜けたような、虚無感だ。
とても幸せな毎日。
楽しい高校生活。
…それなのに
大切な何かが思い出せない。
だけど、…この人たちといると。
その何かを思い出したくない。
そんな気持ちにさせられた。
そして…
その声を聞いた途端、世界が止まった気がした。
風が空を切る音も。
普段なら気にもしない、虫の囁きも。
全てが聞こえなくなって。
周りのものが止まって見えて。
まるで、今この世界には
私と、人使くんの2人だけしかいないようだった。
目の前にいる人使くんはなんだか、幼くて。
だけど、ずっと会いたかった彼が今は…目の前にいる。
ずっと後悔していた。
あの時、連絡をしていれば。
遅くなっても、少しでも。
そうしていれば。
好きだと。
そう伝えるだけで良かったのに。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。