──あの後、どうなったかと言えば。
まるで停電の原因が鬼にあったかのように、電気が復旧して家の中は光に溢れた。
目を覆っていた手が退かされ、もしかしたらそこに鬼の遺体があると思えば、意外にも何も無い。
葛葉君は疲労はしているが、返り血などの汚れも一切なく。他の皆も何も無い、元通りの光景に安堵の息をこぼしたのだった。
私達が居たのは、居間のすぐ側の廊下だ。
いつまでもそこに居るのも、と室内へ戻れば皆一様に畳の上へとへたり込む。
隔離された空間に避難するまではよくも、まさか、最後にその空間を鬼に破壊されて目の前に放り出されるとは誰も思っていなかったのだ。
在らぬ疑いをかけられた葛葉君は口を尖らせながらそう返した。
強者を好む鬼に惹かれる程強いと言われる彼が更に強いと評価するとは。
もしかしたら、本当に私達は全員揃って危ないところだったのではないか。
葛葉君が居るからとどこか安心していた気持ちを嘲笑うかのような現実にゾッとした。
言われてみれば、打ち付けるような雨音も突き抜けるような風音もすっかり止んでいるようである。
外を確認しようと窓へ近づけば、察した加賀美さんも手伝ってくれて窓と雨戸、全てをひらいた。
ひゅう、と湿気を帯びた風が室内へと入り込む。
雨雲はすっかりと去っていったようで、空には月が輝いていた。
まだ少しだけ強く吹く風にあてられることが心地いい。
そうしてしばらく皆で和んでいると、気が抜けたのだろう。
くぅぅとお腹のなる音が響く。
自覚すれば急激に身体が空腹を訴えてきた。
食事を作りに台所へ行きたくても行けないと訴えれば、苦笑した加賀美さんと叶君が共に行くと言ってくれる。
3人でやればそれだけ早く出来上がるわけであるし、と早速2人を連れて夕飯の支度をしに台所へ向かうことにした。
廊下を歩く中、叶君に問われて苦笑すれば彼は加賀美さんのセリフに首を傾げる。
何があったかを説明すれば、その綺麗な顔は嫌なものを見た、というように歪められた。
鬼からすれば、私達は獲物でしかなかったのだろう。
言葉にすれば改めて実感する。
私達は全員揃って遊ばれていたのだ。
台所に着いた時、目の前を歩いていた叶君が突然立ち止まった。いきなりのことに歩みを止められずその背中に思いきりぶつかってしまう。
覗き込もうとすれば、振り返った叶君に抱き締められて視界が彼の胸で覆われる。
状況を共有したらしい加賀美さんの嫌悪に溢れた声に、どうやら台所は今かなり酷い状態だということが伝わる。
予想以上の返答にぞわりと鳥肌がたつ。
あの鬼は、どうやら消えても尚私達を怖がらせたいらしい。
その状態の台所で調理など到底できるわけが無い。不気味であるし、衛生的にもアウトだ。
くるりと身体を反転させられ、肩を押されて歩き出す。
日常を取り戻すには、まだ少し時間がかかるようだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!