第3話

二話 私は平穏を望むだけ
8
2026/02/22 02:57 更新



香羅豆蘭という少女は、自分の見たものしか信じない主義だ。




だから、物語に登場する『気の弱い男子』や『大人しい男子』というものは、現実世界にはいないものだと思っている。

それは仕方のないことだとも言える。

小学校の男子と言えば、元気が有り余っていて、五月蝿くて、騒がしくて、もうとにかく、蘭にとって邪魔な存在でしかなかった。

たとえその『大人しい男子』といった類いの男子がいたとしても、蘭の中では他の(騒がしい)男子と一括りにされていたことだろう。


基本的には、蘭は人に興味がないからだ。





だから、校門の近くの桜の木から救援要請が聞こえたときも
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
(やはりか)
と思ったのだ。

一方で蘭は、驚いてもいた。


男子とは、ふざけて上った木から降りれなくなったとき、見知らぬ女子に助けを求めることができたのか。と。
烏崎 蓮
烏崎 蓮
た、助けてください!
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
え、無理です
烏崎 蓮
烏崎 蓮
へ…、ぇ?
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
(少々無慈悲だったか…)
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
先生を呼んできましょうか?
烏崎 蓮
烏崎 蓮
お、お願いします…?
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
(何で疑問形?)
そして蘭は、心でなんと思おうとも、微笑みを絶やさない。
職員室
先生1
それで?どうして木に引っ掛かってたんだ?
烏崎 蓮
烏崎 蓮
木に、落ちたからです…
教師が三人と、蓮が助けを請うた少女が蓮の目の前に居る。
烏崎 蓮
烏崎 蓮
(人が居るところって、うまく話せない)
タキさん
タキさん
やー、助かってよかったよかった
タキさん
タキさん
あ、後でちゃんと小枝とかとってね
タキさんは『兎のリュック』という特異な外見に関わらず、周りを憚らない声で蓮に話しかけた。
だが、周りの人はなんの反応も示さない。
タキさんの声は蓮にしか聞こえないのだ。

先生
どうしたんだ?
先生1
なにか事件に巻き込まれたとか…
烏崎 蓮
烏崎 蓮
ち、違います
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
あの、
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
私もう行ってもいいですか?
先生
え?
それだけ言うと、少女は返事を待たず去っていった。
烏崎 蓮
烏崎 蓮
あ、あの、僕もそういうことで
烏崎 蓮
烏崎 蓮
失礼します
先生1
あ!…
先生1
あのリュック見覚えがあると思ったら
先生1
あいつ、烏崎の弟か…?
蓮の先、十数歩ぶん程の距離に少女は歩いている。
烏崎 蓮
烏崎 蓮
(お礼しなきゃ)
烏崎 蓮
烏崎 蓮
あの、えっと…そこのお嬢さん??
タキさん
タキさん
あっはぁ!!それじゃナンパだぁ!
蓮の声に気が付いて少女は足を止め振り向いた。
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
…ああ、先ほどの
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
ナンパはお断りですよ
烏崎 蓮
烏崎 蓮
えぇ!?ち、違うんです!
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
分かってますよ
少女は漆黒の髪と瞳をもった真面目そうな見た目だったが、その声は少々お茶らけているようでもあった。
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
…それで、どうしたんです?
蓮は心無しか姿勢を正す。
烏崎 蓮
烏崎 蓮
さっきは本当に、ありがとうございました
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
いえ、構いませんよ
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
ところで、あなたの名前は?
烏崎 蓮
烏崎 蓮
烏崎…烏崎、蓮です
烏崎 蓮
烏崎 蓮
あぁ、っと、一年三組です
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
へぇ…、私は、
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
私も一年三組。香羅豆蘭
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
君と同じだねぇ
烏崎 蓮
烏崎 蓮
え!
ついこの前まで小学生だったとは思えないほどの落ち着きさだったため、蓮は年上だと思っていたのだ。
タキさん
タキさん
君が子供っぽすぎるだけじゃなくて?
烏崎 蓮
烏崎 蓮
ぐぅ…
蘭は上品にスカートを翻し、蓮を導くかのように歩き始めた。
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
じゃあ、行こうか
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
そう言えばずっと気になっていたんだが
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
その兎のリュックは校則違反ではないのか?
烏崎 蓮
烏崎 蓮
ああ、やっぱり、ですよね…
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
まあ、別にどうこうしようと
いった訳じゃないが
蘭は興味を失ったかのようについと目線をそらす。

口許には微笑みを浮かべたままだったが、目は明らかに面倒臭いと語っていた。
香羅豆 蘭
香羅豆 蘭
蘭は学校鞄から文庫本を取り出し、読み始めた。

その時、微笑みが一層柔らかいものになる。少し無防備とも言えるその微笑みは蓮には見てはいけないもののように思えた。


蓮はタキさんを肩にかけて静かに席を立った。
烏崎 蓮
烏崎 蓮
タキさん
タキさん
あぁ!ちょっとどこ行くの?

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