香羅豆蘭という少女は、自分の見たものしか信じない主義だ。
だから、物語に登場する『気の弱い男子』や『大人しい男子』というものは、現実世界にはいないものだと思っている。
それは仕方のないことだとも言える。
小学校の男子と言えば、元気が有り余っていて、五月蝿くて、騒がしくて、もうとにかく、蘭にとって邪魔な存在でしかなかった。
たとえその『大人しい男子』といった類いの男子がいたとしても、蘭の中では他の(騒がしい)男子と一括りにされていたことだろう。
基本的には、蘭は人に興味がないからだ。
だから、校門の近くの桜の木から救援要請が聞こえたときも
と思ったのだ。
一方で蘭は、驚いてもいた。
男子とは、ふざけて上った木から降りれなくなったとき、見知らぬ女子に助けを求めることができたのか。と。
そして蘭は、心でなんと思おうとも、微笑みを絶やさない。
職員室
教師が三人と、蓮が助けを請うた少女が蓮の目の前に居る。
タキさんは『兎のリュック』という特異な外見に関わらず、周りを憚らない声で蓮に話しかけた。
だが、周りの人はなんの反応も示さない。
タキさんの声は蓮にしか聞こえないのだ。
それだけ言うと、少女は返事を待たず去っていった。
蓮の先、十数歩ぶん程の距離に少女は歩いている。
蓮の声に気が付いて少女は足を止め振り向いた。
少女は漆黒の髪と瞳をもった真面目そうな見た目だったが、その声は少々お茶らけているようでもあった。
蓮は心無しか姿勢を正す。
ついこの前まで小学生だったとは思えないほどの落ち着きさだったため、蓮は年上だと思っていたのだ。
蘭は上品にスカートを翻し、蓮を導くかのように歩き始めた。
蘭は興味を失ったかのようについと目線をそらす。
口許には微笑みを浮かべたままだったが、目は明らかに面倒臭いと語っていた。
蘭は学校鞄から文庫本を取り出し、読み始めた。
その時、微笑みが一層柔らかいものになる。少し無防備とも言えるその微笑みは蓮には見てはいけないもののように思えた。
蓮はタキさんを肩にかけて静かに席を立った。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。