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第1話

誰も知らないプロローグ~懐かしい文書~
30
2022/01/27 18:55
 春に彼等に出会えて良かった。そうでなければ僕は、一歩を踏み出さなかった。
 夏に彼女に出会えて良かった。そうでなければ僕は、寂しい人間の侭だった。
 秋に彼に出会えて良かった。そうでなければ僕は、這(は)い上がる力も無い侭潰れていた。
 冬に彼女に出会えて良かった。そうでなければ僕は、本当の強さを知らないでいた。

 大っ嫌いな生徒会。でも今は――あの男にまで感謝してしまう程大好きだって言える。
 それは全て彼の……彼等のお陰なんだ。
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???
まだ……残ってたんだね
 手に持った本らしき物を見ていた長いストレートヘアを片三つ編みにした美女が笑みを浮かべる。
???
???
(……懐かしいのが出て来たな。書いたのは……もう10年も前だ)
 そんな彼女に声を掛ける緩くウェーブの掛かった髪を垂らした美女が居た。
???
???
麗(れい)ちゃん、何を見ているんですか? もう皆行ってしまいましたよ?
???
???
ごめん、――、すぐ行く。ちょっと懐かしいのを見付けてね……
???
???
懐かしい物?
???
???
うん。昔の……10年前の……小説に似せた日記
???
???
麗ちゃん日記付けてたんですか? 面倒事嫌いなのに
???
???
うん。当時のボクは……それだけ楽しかったんだろうね、多分
???
???
そうですか……。10年前かぁ……
???
???
沢山思い出があるよね……高校の頃は
???
???
はい。あの頃はわたしも本当に楽しかったなぁ……
???
???
好きな人も居たもんね
???
???
……はい
 ウェーブの女性は照れ臭そうに、しかし嬉しそうに頷く。
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???
懐かしいね
???
???
はい。本当に……
 ウェーブの女性がそう呟いた時、離れた所から男性の声がした。
???
???
おい、置いてくぞ。――
???
???
あ、はい。すぐ行きますよ、あなた
 ウェーブの女性が嬉しそうに応じる。
 片三つ編みの女性はそんな彼女を見て同じように喜びを感じた。

 そしてそんな彼女を呼ぶ男性の声もする。
???
???
――、早く来いよ。――が居ないと天体観測なんて楽しくねぇし
???
???
うん!
 頷いた彼女は照れ笑いを浮かべながら声の方に駆けて行く。
???
???
待ってよ、――!
 そう言って彼女が向かった先には車があり、そこには現在教師として彼女等にとって思い入れの深い学園に居る跳ねた髪の男性とお団子ヘアの女性の姿もあった。
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???
遅いぞ、――、――
???
???
あんま待たせんなよ
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???
ごめん
???
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すみません
???
???
まぁまぁ。何か事情があったんだろうよ、――と――だからな
???
???
それにしたって中々こんな揃う事無いんだぞ? 楽しみにしてたんだからな、私も
 そんな彼等の様子を観察しながら同じように頷いた片三つ編みの女性は1人物思いにふける。
???
???
(でも今の生徒会は……だからボクは……)
 そして彼女は決断していた。
 ――”生徒会彼等”に干渉する事を。

 彼女は気付いていた。
 自分の性格こそ――
 自分の立場こそ――

 その役割にピッタリだと言う事に。

 しかし彼女は気付いてなかった。
 『彼』がそんな彼女に気付き、心配そうに見つめていると言う事に。
???
???
…………

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