〈iemon side〉
彼女を見つめ、あらんかぎりの力で首を絞める
そうだ、全部彼女が悪い
俺以外の人を見るから、俺以外の人と話すから、俺以外の人に笑うから、俺以外の人と歩くから
もう限界だ
俺は大していい男じゃないんだ
こんなにも美人で可愛い女性だ、簡単に惚れられて簡単に彼女を奪われてしまう、もしそうなったら耐えられない
彼女が嗚咽を吐く
手が、震えた。
首を絞める力が、弱まる
なにやってんだ俺は
これじゃ、彼女を殺せないじゃないか
俺は、彼女を、殺さなければならないのに
幻聴かと疑うほど優しい彼女の声が聞こえた
しかしそれは幻などではなく、現に彼女は俺に向けて両手を広げていた
さっき一瞬手を緩めたせいだろう
もっと強く絞めなければならないのに、俺の目は彼女の落ち着いた笑顔に囚われていて逃げられない
ちからが、どうしても、はいらない
なんで
なんでそんな優しい顔で俺を見るんだ
なんでそんなに落ち着いているんだ
なんで暴れたり騒いだりしないんだ
なんでやめろと言わないんだ
なんで拒否しない?なんで俺を嫌わない?
やめろ、やめてくれお願いだ
そんな優しい顔をしないでくれ
俺を許さないでくれ、俺を嫌ってくれ
ひたすらに暴れて、嫌がって、俺を嫌って、可能な限りの罵倒の言葉を俺にぶつけて刺してくれ
彼女の微笑みが、暖かさが、全部全部が俺を刺す
全ての優しさが鋭い刃となって、罪悪感という名を冠して俺の体が貫かれそうだ
必死に首を横にふる
当たり前だ嫌いになるわけない
そんな俺を彼女は抱きしめ、離し、口を開く
ふらつく足取りでキッチンへ向かう
指先にまで意識が届かない
刺さった罪悪感を何とかする方法案だけがひたすら脳に散らされていた俺は
さっきとはまるっきり違う彼女の様子にすら、気づくことはできなかった
Fin.
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!