〈ruka side〉
この学園の風紀委員の朝は早い。
朝っぱらから校門に立ち、挨拶運動をして、そして_______
とまあこのように、近所迷惑な場所で戦う輩を成敗する。
ちなみにさっきの2人は成敗される常連。しかも能力があたりをとにかく破壊するタイプのものだからよけいに厄介なのだ。
いい加減にしてほしい。
そう呟いてはため息をつき、黙々と風紀委員の仕事に戻る。
最近は俺が強くなったおかげかああいう輩が減っているが、風紀委員が発足した初期なんて酷かったものだ。
毎日毎日叫び、喉を枯らしては薬を飲む日々。もう二度とあんな頃には戻りたくない。
「叫」の柊鳴ルカ
叫ぶ声が形になり相手を攻撃する。声量に応じて威力が変わる。だが声帯はそのままのため、やりすぎると喉を壊す。
柊鳴ルカ奥義「天送」
5分間相手の重力を操れる。相手を遥か上空まで飛ばし、そこから地面へとぺしゃんこにする勢いで叩きつけることも可能。
「ロケット」のSレイマリ
ロケットの形をした小型ミサイルを好きに飛ばせる。時々自分にも当たり自爆する。ミサイルの威力は好きに変えられる。
Sレイマリ奥義「マジックショー」
超巨大なミサイルを一気に、そして大量に飛ばす。なにかにぶつかると爆発する。
「爆発」のガンマス
好きな場に爆発を起こす。時々自分にも当たり自爆する。爆発の威力は好きに変えられる。
ガンマス奥義「頭部大爆発」
発動者の頭の見た目をした爆弾を5分間好きなだけ生み出し、ロケットのような勢いで投げ飛ばす。すぐに爆発するし爆破範囲も広いため、すぐ投げないと自爆する。
この学園は特殊である。
この国は全員が異能力者であるが、その能力を好きに発動して良いのだ。
もちろん、戦うことも許されている。
校舎や寮には再生がかけられ、学園周辺にはバリアが張られているため壊れることはない。
そして特殊な回復能力があたりに舞っているから、戦りすぎで死ぬこともない。
しかし、普通に音は貫通するし戦闘を不得意とする生徒には危ないからと発足したのがこの風紀委員。
当時募集に応じた生徒がこの委員に所属しているのだが…
俺は既に、それを後悔しているところだ。
まあある程度は長くやっているから、僅かなこの仕事に対する誇りや達成感もありはするが、それを上回るのがこの大変さなのだ。
キーンコーンカーンコーン…
もう少しでHRの時間だ。
そう気づき、俺は校門を後にした。
勉強はそこまで得意じゃない。
授業もほとんどは流し聞きだ。
ふと眺めた校庭では、ウパさんとLatteさんが戦っていた。どうやら戦闘訓練の授業中らしい。
彼らも発足当初は成敗常連だったが、流石にわきまえたのか今は校門では戦り合うことはなくなっている。
あの時はしょっちゅうあたりが燃えて大変だったな…なんて、懐かしいあの頃に思いを馳せる。
ああいや、別に戻りたいわけでは微塵もないのだが。
「着火」のLatte
好きな場所に火をつけられる。だが消せない。燃ゆるのみ。能力の使用者に燃え移ることもある。
Latte奥義「盤石の炎陣」
発動者から半径5メートルを一気に業火で焼き尽くす。炎は発動者には燃え移らない。9分7秒経つと消える。
「離別」のウパパロン
自分から一定距離に球形のバリアを張る。それに本人以外の生き物が当たるとダメージを食らう。伸縮は不可能だが、消したり出したりすることはできる。
ウパパロン奥義「両生類」
10分間水と地面(土)を自在に操れる。土を集め、固め、ゴーレムのようなものを作ることも可能。
やっべ聞いてなかった。
そもそも今何ページだ…?
先生が黒板に向き直ったのを確認し、静かに隣の席の方を向く。
感謝を伝えて座り直し、置いてるだけだった教科書を開く。
隣の席の彼女…みぞれさんは、この学園では珍しく血気盛んではない方で、穏やかな人である。
…能力は全く穏やかでもなんでもないのだが。
「被罪」のみぞれ
七つの大罪を操り、自分で被ることと相手に被らせることができる。被るとその被った欲や感情が激しく強化される。被る使用時間がMAXを超えるとコントロールが不能になる。MAXは被る人の強さによって変わる。
みぞれ奥義「アリスのおあそび」
全方向に無数のライフルを生成し、銃弾を同時に撃つ。その弾に触れたものは思考が悪意に染められ、正常な判断ができなくなる。
彼女は強い。
能力だけでなく、彼女自身も。
世間一般で言う陰の実力者というやつだ。
風紀委員発足当初、人手が全く足りていない時はたまに彼女にも手伝ってもらっていたこともある。
しかし始めてそれを頼んだ時はそれはそれは嫌がっており、理由を聞けば、「まだ上手く加減ができないからうっかり殺してしまわないか心配」とのこと。
みぞれさんに逆らってはいけないと心に決めたのは、確かあの頃だっただろう。
ゴロゴロゴロ…
ドオオオオオオオン!!!!!!!!!
急いで覗いた窓の外では、さっきまでなかったはずの真っ黒な雨雲が空を覆い隠していた。
雨が土砂降りになって、ゴロゴロと雷の音が鳴っている。
少し耳を澄ましてみれば、突然の雨にブチギレているLatteさんの声が聞こえるようだった。
…それと、地面から唸るような声もセットで。
"あの2人"というのは、めめんともりとレイラーの師弟コンビのことを指す。
あの2人は師弟というだけあるのかお互いの能力や奥義の相性がやけに良く、常にあの2人で行動しており、戦闘をする際は大規模なことになりがちなのだ。
「ネクロマンサー」のめめんともり
ゾンビやスケルトンを作り上げ、使役することができる。しかし太陽光の下では消えてしまう。
めめんともり奥義「統率魂」
死者の魂を呼び起こし、相手を攻撃させる。無限に呼び起こせるが、魂は30秒しか形を保てず、それを超えれば消える。能力を使えるのは発動から5分。
「雷鳴」のレイラー
好きな場所に雷を降らせる。天気は関係ない。ピンチになればなるほど雷の強さが増す。ただし降らすにはクールタイムがある。そして強さが増せば増すほど身体にも反動で痺れがきやすくなる。
レイラー奥義「大黒天」
天候を雷雲に変え、一気に超強力な雷を半径5メートルに降らす。変わった天候は3時間経つと戻り、戻るまでは能力のクールタイムと身体への痺れがなくなる。
投げられた言葉に返答しつつ、喉の痛みを和らげる薬を机から出した。
こういうとき、先生だけでは手に負えない時は風紀委員が連れ出されやすいのだ。
頼むからこれ以上大事にならないでくれ。そう願っていると、
ドガーーーーン!!!!!!!!!
別の校舎の方から、大きな音がした。
嫌な予感が溢れてくるのを抑え、もう一度窓の外を覗き込み、
中等部の校舎を大破した大きな猫が見えた瞬間、俺は頭を抱えた。
「我儘」の柊鳴ヒナ
自分よりも弱い物に言うことを聞かせられる。生き物だけでなく物質にも可能なため、実際はサイコキネシスのような使い方をすることが多い。
柊鳴ヒナ奥義「お猫さまの言う通り」
超巨大な化け猫(サイズ以外は普通の猫そのままの姿)を生み出し、戦わせられる。その猫は猫自身が戦うこともあれば小型の猫を手先として操ることもある。発動者だけは自由に消したり出したりできる。一定以上のダメージを受けると消える。
あれは俺の妹、ヒナの奥義で間違いない。
…というより、あいつ以外ありえない。思い返してみれば、今朝は明らかに普段よりも爛々とした目をしていた。
あの目は確実に、戦りたい日の目だった。
ああヒナ、お前はどうしてピンポイントで俺の一番困ることができるんだ。
今すぐにこの言葉を投げかけたくてしょうがない。まあ、もうすぐにそれは叶うのだろうけど。
彼女のせめてもの労いなのであろう言葉を素直に受け止め、隣を向き頭を下げる。
…そこで、また俺は最悪なものを見た。
うちのクラスではみぞれさんと同じく血気盛んではないタイプの人、それが彼女、ぐさおさん。
このクラスの良心ツートップとまで言われているが、俺は知っている。
彼女は昔超がつくほどの戦闘狂であり、今は落ち着いてきたものの熱すぎるバトルを見ると乱入したくてたまらなくなってしまうことを。
そう言うと彼女は能力を使い、窓から簡易的な階段を作り下へと降りていく。今日は木材が出たようだった。
ある程度は想像し覚悟していたが、やはり現実に起こると絶望感が半端ない。
「数の暴力」のぐさお
とにかく大量の何かを生み出し、それを操り攻撃や守備などをすることができる。しかし何が生み出せるかはいつもランダム。
ぐさお奥義「執粘龍」
巨大な龍を生み出し、戦わせられる。ピンチになればなるほど強くなる。発動者だけは自由に消したり出したりできる。一定のダメージを受けると消える。
彼女が参戦してしまえば、いよいよ先生だけではどうしようもなくなる。
風紀委員が呼ばれるのも時間の問題だろうと思い、机に出していた薬を規定量一気に流し込んだ。
もし止められるのなら今参戦を止めるのだろうが、そんなことをしてしまえばこの教室が廃墟と化すのは目に見えている。
空想の世界へ逃げようとするも、彼女が召喚したであろう龍の猛々しい雄叫びによって俺は半ば強制的に現実へと引き戻された。
ガラガラッ
乾いた笑いをこぼし、びっくりするほどスローリーに立ち上がった。
どうせやらなければいけないとわかっているからこその、ほんの僅かな反抗だ。
彼女に名を呼ばれた直後、なにかの力が上がったような感覚に襲われた。
…ただ、少し頭が痛くもなった。
なんだ、これ。わからない。なんでわからないんだ俺は。いや、そもそもみぞれさんはなんで俺に何も教えないんだ…
氷河のように冷たい声に、頭が冷えていくのを感じた。
これなら普段よりもっといける。
すぐに切れるなら早く行かなければ。
俺の足は既に教室の外へと向かっていた。
誰もいない裏路地にて、呟く。
…あのバトルは、約55分の大激闘にて幕を下ろした。
俺の喉はまだ無事ではあるが、ゾンビやら猫やら龍やらに襲われ、雷を受け、奥義も使い、もう俺のストレス耐久値は崩壊寸前だ。
こういうときはストレス発散に付き合ってもらうしかない。
そう思い、俺はこんな薄暗い路地を通り、もう使われていない校舎___旧校舎の方へと向かっていた。
ギイギイと軋む両開きのドアを開け、埃っぽくなった廊下を淡々と進んでいく。
立ち並ぶ教室は全てが薄暗かった。
この校舎は古いため、現校舎とは少しかかっているものが違う。
"再生"ではなく"固定"。
この旧校舎が取り壊されないのもそれが大半の理由を担っていた。
…ただ、絶対に壊れないというのは今の俺には好都合だ。
そんな事を考えながら階段を上がり、2年の階___2-Aの教室のドアを開けた。
…否、開けようとした。
パシッ
「狂気」の御前崎八幡宮
絶対に誰の予想できない攻撃を繰り出せる。しかし本人すらもどんな攻撃をするのか想像がつかない。
御前崎八幡宮奥義「狂動」
相手を混乱させ、わけのわからない行動をさせる。それからどのくらいで抜け出せるかは相手の精神力による。
「正義執行」のメテヲ
相手より先に「攻撃する行動」を起こした場合、確実にその攻撃を食らわせることができる。しかしそれは自分にも適応される。また、相手は回避こそできないが防御はできる。
メテヲ奥義「正義大乱闘」
15分間理性を失い、戦うことしか考えられなくなる。その代わり筋力や握力や柔軟性、跳躍力等の身体能力がとんでもなく強化される。
この2人はクラスこそ違うものの、俺の同級生である。
だけど俺はこの2人が授業に出席している姿を見たことは一度たりともない。
一体どうやって単位を取っているのか非常に気になるところではあるが、今日はそんな話をするつもりで来たわけはない。
そう言うと八幡さんは俺の目の前にリプトンの紙パックレモンティーを突き出した。
開けられた片方の飲み口にはストローが刺さっており、カラカラとなる音からもう空なんだろうというのはゆうに想像できることだった。
一言だけでも、2人は即座に理解したようだった。
…そして、次に浮かぶのは疑問のようで。
そう言うとメテヲさんは俺達になにか言わせる時間も渡さず、全速力で現校舎の方へと駆けていった。
おそらく保健室に向かうんだろう。
バッと相手から距離を取る。
八幡さんの俺に向ける目線が変わった。
友人に対してのものじゃなく、あれは敵に向けるものだ。
いい、良い。
気分が段々と高揚していく。
互いに全力をぶつけ合う戦いなんて、本当に久々だ。血湧き肉躍る、そんな戦いができそうな予感がする。
『始めましょうか』
その言葉を皮切りに、戦は始まった。
![くるみ[暇T中毒]さんのアイコン画像](https://novel-img-gcs.prepics-cdn.com/prcmnovel-tokyo-prod-converted-images/p/09e64b3137f83da5f12b5037a846bea036b2a307/user-icon/01KN4S2267F5JZ154FS28ZNV5M_resized_192x192.jpg)











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。