〈latte side〉
貴方って時々、そんな風に笑うのね。
なーんて、ご令嬢っぽく言ってみたり。
まあ実際そうなんだけどさ。
…綺麗な笑顔だ。
2階の窓から眺めているせいで少し見にくいけど…まあある程度の表情はわかる。花が咲いたような、可憐な笑顔。
これ以上、この想いを加速させたくはないんだけどな。ほんと、あいつは…みぞれは、罪な女だ。
叶うわけがない。叶っていいわけもない。
なのに、毎日願わずにはいられない。
嗚呼、今日は月が綺麗に映るものだ。
何時にも増して美しい。
満月祭、もう明日か。
きっとその日は今日以上に、綺麗な月が昇るだろう。
そんな素敵な夜に、あいつと一緒に踊れたらいいのに。
もし踊れたら、私は…
もう寝た方がいいか。
そう思いベッドに入り、目を閉じる。
…ふと、思い出した言葉。
今日英語の詩で学んだ文章。
『Maybe I′ll fall in love with you today.』
…今の私に、ぴったりかもね。
…相変わらず、笑ってはくれない。
まあ当たり前だ、今のみぞれは従者だから。
それでも私は、あの頃に…対等な立場であり、互いに友達でいることができた頃に戻りたいのだ。
そんな想いも虚しく、みぞれはさっさと
私の服や髪のセットを始めてしまった。
窓の外には満月が見える。
そう、今日は満月祭。
一日中月が沈まない不思議な日。
あ、歌ってる。
…懐かしい。この時だけ、この瞬間だけは…あの頃にいるように思える。本当に、大切な時間。
いつも見ていた、ちょっと静かで気弱な貴方。
少しだけ思い出した、初対面だったあの日。
その時もみぞれは鼻歌を歌っていて。
きっと優しいんだろうなって、なにも話してなかったのにも関わらずそう感じた。そんな、貴方の鼻歌。
今でも時々聴こえるのが、堪らなく嬉しい。
私だけが気づけた歌。なんだか特別に感じる。
そう言いながら慌てて走る…ところを抑え、早歩きのフォームに変え、歩き出す。
それに合わせてみぞれも着いてくる。
本当に、みぞれは、どこまで完璧なのだろうか。
ここまではっきりと関係に溝を作られると、昔幼馴染みだったのか怪しくすらなってくる。
…ん?
馬車は珍しくみぞれと二人きりだった。
それでも終始、会話はあまり弾まなかった。
つまらん。
寄ってくる奴は金目当てか体目当てか晒し者にしようとしてるカスしかいないし、お貴族様の食べ物はすっくなくてほぼ無味無臭の物しかないし。
引き取ってくれた家がまともでよかった、カスの家とか行かされてたら2~3日でみぞれと逃げ出すところだった。
…あ、そうだみぞれだ。
馬車の中でなんとか引き出せた情報。みぞれは6時あたりにステージで1曲だけ歌を歌うらしい。
今の時間は…うん、ちょうどいい。
ステージの場所ならわかるしもう向かってしまおう。
そういえば、みぞれの鼻歌じゃない歌を聴くのはかなり久しぶりかもしれない。
そう思い浮き立つ気持ちを胸に、
ステージへの道へと足を向けた。
それから数分後、私は。
みぞれの歌に、圧倒されていた。
……知らなかった。
みぞれは、あなたは、今まで何年もずっと、そんな歌声を隠し持っていたのか。
ああ、なんて楽しそうな笑顔なんだろう。心の底から歌うことを楽しんでいると言うような、眩しい笑顔。
そんな風に、笑うことができるのか。
こんなにも力強く、歌うことができるんだね。
本当に、美しすぎる。
夜空に浮かぶ月よりも綺麗だ。
だけど時は無情で、みぞれは曲の終わりと共に素早く裏方へと引っ込んでいってしまった。
さっきまでいた退屈な気持ちなんて、とっくのとうにどこかへ吹っ飛んでいた。
こんな歌声を聴けて、いい夜にならないわけがない。
でも、どうしてだろう。足りない。
なにかが心に虚無を作り、居座っているような。
そうだ。
会いたい。みぞれに。それで、話したい。
あの日の夜のように、もう一度2人で。
唐突に現れたそんな望みに突き動かされ、
私はとある場所へと走り出していた。
走りにくいハイヒールと慣れないドレスを着用している状態にしては、よくやった方だと思う。
息を整えつつ、周りを見る。
綺麗な薔薇が、あたり一面に広がっていた。
ここ薔薇園だから当たり前なんだけど。
そんなことを考えていると、背後から物音と声がした。
ポカンとした表情の、みぞれだった。
来ると思った。みぞれ、薔薇好きだもんね。
それに、初めて2人で計画した夜更かしの舞台も、ここみたいな薔薇園だった。
二人して押し黙る。
本当はわかっている、悪いことなんてない。
強いて言うのなら、運が悪かったんだ。
だから、責められない。
だから、謝れない。
だから、一方的に悪人になれない。
重々しい空気なんて、この時間にはいらないかな。
混乱するみぞれの手を繋ぎ、
空いた片手で髪を整えた。
好きな人と二人きりの空間で踊るんだ、それくらいは気にしてもいいだろう。
…みぞれが、片膝をつき手を差し出してくれた。
こういうのしてくれるのが好きなところ。
……ま、言えないんだけど。
こういうの全部、すっぱり忘れられたらいいのに。
心の中でひとりごちて、彼女の手をとる。
少し遠くに見える城から、きらびやかなメロディーがまた新たに奏でられる音が聞こえた。
それに合わせて、ステップを踏み出す。
手汗かいてないかなって、少し不安になった。
だめだ、やっぱりどこかに重苦しい雰囲気がある。
……だったらもう…
我が儘になっても、いいかな
その言葉を皮切りに速さが増した。
回って、回して、二人で回って。
エスコートなんてあったもんじゃない、拙くてもいい、好き放題できるひたすらにわがままな二人きりのワルツ!!
「「最高に楽しい!!!」」
二人仲良く叫び合う。
間近で見たみぞれはあの日と同じ、柔らかであどけない、そんな顔で笑っていた。
そっか、あなたはまだ、そんな風に笑ってくれるのか。やっぱり私は、あなたが……いや。
やっぱり今日も、世界で一番、月が綺麗だ。
太陽なんかなくたって、あなたが世界で一番きらきらと輝いて、私のことを照らしてくれる。
全体重を後ろに投げ出す。
それでも、あなたはきっと_____
やっぱり、支えてくれた!!
そう、そうなの、だから、私は。
そう、満面の笑みを見せてくれる、あなたが。
しってる、これが友愛だって。
それでもいい、ぬか喜びさせてもらおう。
だって私は、恋愛とかそういうの全部ぶっとばして、私は!
みぞれという人間が、世界一大好きだから!!!!!!
楽しい、楽しい、楽しい。好き、好き、好き。
楽しい、好き、楽しくて、大好き!!
互いの声しか聞こえない。
音楽なんて、どうでもいい!
そんな私の視界が、みぞれの瞳を捉えた。
そこに私が映った。
…私、こんな風に笑うことがあるのか。
やっぱり、いつにも増して月が綺麗だから?
夜空に光る星があんまりにも多いから?
童心に返って笑いあうのが幸せすぎるから?
ワルツがどうしようもなく楽しいから?
きっと、違う。そうだけど、違うんだ。
贅沢にも、こんな素敵な夜に、私は知り、思う。
きっと今日私は、今までに過ごした日々よりも、今日が一番、なによりも、
もっとたくさんのあなたを知って、全部のあなたを大好きになるんだろう、って。
お互いに手を強く握り直した。
楽しい時間が過ぎるのは、速い。
そのことは誰よりも私達が知ってるつもりだ。
だから、だから、この二時間は。
あの頃、あの日みたいに。
二人っきりで、二人だけの世界で、その中心でひたすらに、楽しく、踊っていよう。
それを邪魔する権利なんて、誰にもないんだから。
そういって、笑って、また回った。
夜は、長く、短い。
その時間に見合わないくらいの笑顔と、幸せを。
今だけは、享受していよう。
Fin.
最高な原曲様
![くるみ[暇T中毒]さんのアイコン画像](https://novel-img-gcs.prepics-cdn.com/prcmnovel-tokyo-prod-converted-images/p/09e64b3137f83da5f12b5037a846bea036b2a307/user-icon/01KN4S2267F5JZ154FS28ZNV5M_resized_192x192.jpg)











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。