あなた side
目の前のソレ……私の母親は
私にも理解できるように
話をこと細かく噛み砕いて説明してくれた。
その甲斐あってか、
自分がどういう状況に置かれているのかは
なんとなく理解出来た。
さっき殴られた時に切れた口の中が
言葉を発する度にジンジンと痛む。
まるで体が言葉を出すのを躊躇っているみたい。
頬が濡れて傷に染みる。
あぁ痛い。痛いのは好きじゃないのに。
ふしはずっと、死んだアイツを見てる。
私がふしの瞳に映るなんて無理なんだ。
『 アンタなんか絶対に幸せになれない 』
あの女の言葉が脳裏にチラついて
首にある古傷がジリジリと痛み出す。
私の言葉に顔を歪めた母親は、
私の手を優しく握りしめ、その口を開いた。
私と同じ真っ黒な瞳はどこまでも深くて
なにか強い思いが込められているように感じた。
冷ややかな瞳でそう言った母親の言葉を
「確かに」と密かに納得してしまうのは
きっと、私達が親子だからなのかもしれない。
そう母親は、優しく私を抱きしめる。
コレの行動は、妹の時と同じで
なにか企みがあるのかもしれない。
今度は私を騙そうとしているのかもしれない。
それでも、そんな疑念なんて気にならないほど
胸のあたりが暖かくなる感覚が心地よかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。